息子が飽きたタイミングで、唯さんは用意しておいた絵本や動画を渡します。でも、車内にいる大人に圧倒されていたのか、息子は「やーやー(やーだー)」と言って全然食い付いてくれません。
「場所見知りなのか、電車から降りたがってしまって。あの時は本当に困りました。息子はまだはっきりとした言葉はあまり喋れなかったのですが、『いややー、でうー(出るー)』と結構大きな声で叫んでしまって」
唯さんは、乗車している他の人に迷惑が掛けてしまっていると感じて、冷や汗をかいたと言います。
「あの時、息子も泣いていましたが、私も泣きそうでした。息子が喜ぶと思って連れてきたのに帰りたがっているし、周りの人の迷惑そうな視線が心に突き刺さるような感覚でした」

「その時に助けてくれたのが、白髪の混じった髪で、薄い色の付いたサングラスをした60代くらいの女性でした。私のほうへ来て、『お母さん、大丈夫よ。元気なお子さんで嬉しいね』と声を掛けてくれたんです」
さらに女性は、唯さんが折り畳んで持っていたベビーカーを広げて、そこに息子を乗せることを提案してくれたそう。
「電車ではベビーカーは折り畳むもの。折り畳まないと、周りの人に迷惑が掛かってしまうと思っていたので、そう言われたときは驚きましたね。でも、その通りにベビーカーを広げて息子を乗せると、息子の癇癪がピタッと止まったんです」
その後の会話から、女性は長年保育園で保育士さんとして勤務していることが判明。さすが、保育のプロですね。