スピッツ『名探偵コナン』主題歌がヒット。結成36年でも“懐メロバンド”にはならない理由
ロックバンド「スピッツ」が絶好調です。劇場版映画『名探偵コナン 黒鉄の魚影(サブマリン)』の主題歌「美しい鰭」が5月17日付のビルボードチャートで2位までランクアップし、大ヒットになりそうな勢いを見せています。
広瀬すず主演の映画『水は海に向かって流れる』の主題歌「ときめきpart1」を含むアルバムのリリースも控えており、今後もメディア出演が増えていくことでしょう。
バンド結成から36年。90年代半ばに「ロビンソン」や「チェリー」などのメガヒットを連発した彼らもすっかりベテランの域に達しました。しかしここへ来ての活躍には目覚ましいものがあります。
連続テレビ小説『なつぞら』の主題歌「優しいあの子」、TikTokでバズった「愛のしるし」(PUFFY)の作曲は草野マサムネ。要所要所で人々の印象に残る音楽は若々しい。決して“昔の名前で出ています”ではないのです。
ここからは現在の音楽シーンでも色褪せないスピッツの現役感について考えてみたいと思います。
まずは若いミュージシャンとの違いです。
King GnuやOfficial髭男dism、シンガーソングライターなら米津玄師やVaundyなどの新世代のアーティスト。彼らの楽曲は、複雑な和音や転調と込み入ったリズムを多用しながら、サウンドの面では様々なジャンルに精通していることがわかる作りになっています。
年齢的にデジタルネイティブであることもあり、学習から実装までの間にタイムラグが生じないアドバンテージもある。ひとつの曲のなかで、豊富な知識をまとめる手際のよさにかけて急速に発展を遂げているのです。
スピッツはそれとは明らかに質感が異なります。彼らの曲に外付けされた知識を感じることはほとんどありません。あくまでも草野マサムネの歌とメロディを聞かせるためのバンドなのですね。
だからといって工夫がないわけない。スピッツの場合、知識ではなく知恵としてあらわれます。たとえば、「渚」のサビでボーカルとベースがハモる部分。時間にしてほんの数秒。目立ちませんが、勘所を押さえるアレンジはお見事。
「美しい鰭」の歌いだしの変拍子も、ただバンドに技術があることを見せるのではなく、歌と歌詞に必要だからやっている。これも曲のフォルムを特徴づけるための知恵なのです。
こうした武器を磨き続けているからこそ、“懐メロバンド”にはならないのでしょう。



