夫は彼女の両手を握りしめて「ありがとう」と言った。それからは娘のめんどうもよく見るようになった。彼女も夫との距離を縮めようとがんばった。半年後には生理的に無理だと思っていたがセックスも受け入れた。だが1年ほどたったころにはまた帰宅が遅くなり、仕事が忙しいと虚ろな目をキョロキョロさせながら言った。
「しばらくすると頼んでもいないのに、義妹から『
にいさん、またあの女と会ってる』と報告してくれたんです(笑)。結局、別れられなかったんでしょう。しかたがないので、会社経営者である不倫相手の夫に連絡しました。彼はまったく知らなかったようで、申し訳ない、調べて善処します、と」
その後、妻が浮気していることを確認した。あなたには誠意を尽くしますと言って、かなりの額を提示されたという。

「それをもらって、やっぱりやり直すのは無理だ、あなたはまだあの人妻とつきあっているのがわかったからと夫に言いました。がんばって再構築しようとしたのは私だけだったね、と。夫は離婚だけはしたくないと言いましたが、その直後、
夫が彼女と撮っていた結婚衣装の写真を見つけてしまったんです。たまたま私が持って出ていこうと思っていた高校時代の卒業アルバムを探していたら、ダンボールからその写真が出てきて……。破って夫の鞄の中に入れておきました」
それからすぐ、彼女は子どもを連れて家を出た。夫は彼女の夫から訴えられたそうだ。今になって考えると、不倫にも「許せる不倫と許せない不倫がある」とナオミさんは言う。
「衝動的に一夜の関係を結んでしまったとか、そういうことなら私は許したと思うんです。でも結婚前から続いていた関係で、バレてからもほとぼりが冷めたらまたつきあって、バカみたいに結婚式のような写真まで撮ってるなんて、あまりに人をバカにしてる。妻を見下したような不倫は、やはり制裁を受けたほうがいいんです」
今、11歳になる娘とふたりで暮らすナオミさん。仕事をしながら子育てをするのは大変だが、同居する母親の協力を得ながら、精神的にはのんびり自由な生活をしていると笑顔を見せた。娘に元夫の話はほとんどしていない。元夫は会社を辞めたらしく、行方がわかっていないが、もし娘が会いたいと言ったら「探すしかないでしょうね」と彼女は淡々と言った。
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<文/亀山早苗>
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