中田自身はボケたおし“お笑い”を利用してプライドを守った
さて、こうした仲間の芸人たちの苦労や工夫を知ってか知らずか、当の中田本人はすべてをスカしたボケでやり過ごすという選択を取りました。以下、6月8日公開の中田のチャンネルの動画『オリラジ会議』でのやり取りです。
“提言”動画の中で公開されたものの現在は削除された<中田で笑うのって結構知性いるからね。中田を面白いと思わないって、ドストエフスキー読めないとか、モーツアルトがわからないのと一緒だから。後世恥かくから。>という自身の発言を、<センスとオツムがない奴におれの笑いは理解できない>という松本人志の『遺書』からの一節になぞらえたのです。
そうすることで、自身のうかつさを軽減すると同時に、本当は松本人志が好きなのだと世間にアピールしたい意図が垣間(かいま)見えるのですね。正面からの謝罪や撤回ではなく、少しずつ論点をずらしたり反感を薄めたりするためにボケ倒す。相方の藤森も律儀(りちぎ)に全力でツッコむので、中田も誤った方向で加速してしまう。
ほんこん、上沼恵美子、東野幸治といったベテラン勢からの批判や疑問も、すべてこの方法で不真面目に処理してしまうので、視聴者の印象は良くなかったのではないでしょうか。
ここからうかがえるのは、“負けたくない”、“負けを認めたくない”というプライドだけ。そのためにお笑いを利用している雰囲気が、爽やかではないと感じました。
中田は藤森ふくめ多くの人の好意的なフォローに気づいていないのか
改めて、せいや、野田クリスタル、チョコプラの反応を振り返ると、そのプライドを真面目さだったり論理的な考え方だったりと、好意的に解釈してフォローしているように見えます。
しかしながら、当の中田敦彦がその友情に気がついていないのではないか? 藤森慎吾の必死な献身が、そのことを物語っているように感じました。
<文/石黒隆之>
石黒隆之
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。いつかストリートピアノで「お富さん」(春日八郎)を弾きたい。Twitter:
@TakayukiIshigu4