
(画像提供/文藝春秋)
――主人公・ゆいちゃんの母親は統合失調症を患っていますが、病院に行きたがらないため治療を受けられません。当人が拒否する場合は治療する手段はないのでしょうか。
水谷:大抵の人が最初は「精神科を受診したくない」と言うと思います。漫画の舞台になっているのは1990年代なので、今より偏見や差別が強かったのでハードルが高かったと思います。
本人が「自分は病気だ」と認めるのは、まずとても難しいことだと思います。なんとか病院に行けと足しても、自分に合う医療者に出会えるかどうかは運の部分が大きいです。
周りの人が「あなたは病気だから治しなさい」という態度だと、当事者が拒否してさらに悪化するかもしれません。個人的には、当事者が大切にしていることを尊重する関わり方が大事だと思います。なるべく対等な関係や状況を作って、安心を感じてもらうことができれば、当事者の中で変化が起こったり、自ら話をしてくれる可能性があると思います。
精神疾患に関する差別や偏見は昔に比べれば少なくなっていると思うのですが、まだ自分から受診する人は少ないかもしれません。
ずっと微熱や頭痛、腹痛、不眠があったという元ヤングケアラーも多かった
――患者さんを支える家族が受けられる支援はあるのでしょうか?
水谷:今のところ、決まったものはないと思います。ただ、主人公もそうなのですが、ヤングケアラーの方は小学校低学年くらいからずっと微熱や頭痛、腹痛、不眠があったという人が多かったです。今は各学校にスクールカウンセラーがいるので、子供がそういった症状を訴えた時に話を聞いてあげられるといいと思います。
また、精神科の医療者が患者さんだけではなく「家族を丸ごとケアする」視点を持つことが重要だと思います。医療者が家に来てくれて、家族の皆さんと話をする機会を作ってくださると理想的です。実際にそういう取り組みをしている訪問介護ステーションはあるのですが、人件費などのハードルがあると思いますし、余程の熱意がないとやらない方法だと思います。
この本の舞台は90年代から2000年代前半なので家族に対するサポートがほとんどなかったようです。でも今は親子を支える団体、当事者がグループディスカッションできるような場が増えてきています。書籍の最後に、精神障害の親や家族を持つ人、ヤングケアラーの支援団体の連絡先をいくつか掲載しています。ぜひご相談していただければと思います。
(C)水谷緑/文藝春秋
<取材・文/都田ミツコ>
都田ミツコ
ライター、編集者。1982年生まれ。編集プロダクション勤務を経てフリーランスに。主に子育て、教育、女性のキャリア、などをテーマに企業や専門家、著名人インタビューを行う。「日経xwoman」「女子SPA!」「東洋経済オンライン」などで執筆。