
水谷緑『私だけ年を取っているみたいだ。ヤングケアラーの再生日記』(文藝春秋)
――親に放任されているヤングケアラーが非行に走ってしまうことは多いのでしょうか?
水谷:私が取材した中では、「グレたくてもグレられなかった」という方が何人かいました。「グレたら負けだ」と思っていたり、非行に走る暇もなかったそうです。冷めた感覚の方が多いので「グレても何も変わらない」と現実的に捉えられていました。
――身の回りで「ヤングケアラーかもしれない子供」がいたら、どう接するのがいいと思いますか?
水谷:人は否定されると絶対に心を開きません。正論で追い込まない方が受け入れられやすいと思います。
――ヤングケアラーの親を非難したりすると心を開いてもらえないかもしれないですね。
水谷:ただ、難しく考えなくても隣近所の方が声掛けをするだけでも救いになると思います。元ヤングケアラーの方が、「隣の人が気にかけてくれて時々おかずを持ってきてくれたことが嬉しかった」と言っていました。子供の時は家事で精一杯で「何でこの人はご飯を持ってくるんだ」と思っていたけど、大人になってから思い出した時に嬉しくて涙が出たのだそうです。すぐには解決に繋がらなくても、時を経て心の癒しになることもあります。
いつも1人で買い物をしている子や、家の修理業者との対応を子供がやっていたりしたら、周りの人が「こういう子がいるんだな」と認識しておくだけでも全然違うと思います。
――話し掛ける場合は、どんな声掛けだといいのでしょうか?
水谷:「お母さんはどうしたの?」と毎回聞かれて嫌だったという声がありました。ヤングケアラーの家族を責めたりせず、「いつも頑張ってるね」と褒める方がいいと思います。人に声を掛けるのは大人でも勇気がいると思うのですが、まずは挨拶だけでもいいと思います。
挨拶という形で何回かジャブを打っておくと「この人になら言えるかもしれない」という気持ちになるという元ヤングケアラーの方もいました。
――あまり心配する様子を見せない方がいいのでしょうか。
水谷:あからさまに心配すると警戒されるかもしれないですが、何もしないよりはましだと思います。
ある支援団体では、子供に何も聞かず、まずは皆でゲームをして遊ぶそうです。何回も遊んでいるうちに子供がぽろっと悩みを話してくれることがあると言っていました。近所の大人が一緒に遊ぶのは難しいと思うので、まずは挨拶から始めるといいと思います。
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(C)水谷緑/文藝春秋
<取材・文/都田ミツコ>
都田ミツコ
ライター、編集者。1982年生まれ。編集プロダクション勤務を経てフリーランスに。主に子育て、教育、女性のキャリア、などをテーマに企業や専門家、著名人インタビューを行う。「日経xwoman」「女子SPA!」「東洋経済オンライン」などで執筆。