
救い手は近くにいた。ハジメが桜子に騙されていることも知らずにうつつを抜かしている間、毎日切手を一枚だけ買いにくるレイカ(清原果耶)だ。可憐な清原果耶が岡田将生の透き通る表情をただただ見つめる。
これだけで映画が成立してしまう。何をやってもワンテンポ早いハジメとワンテンポ遅いレイカが起こす嘘みたいにマジカルな時間が流れる。つつもたせのことは忘れて、このふたりの間に純愛がほのかに芽生えないものだろうか…。
結末には触れないが、ある朝いきなりハジメの時間がとまってしまう。一方、レイカの時間はなぜかとまらない。ピタッと動かなくなった彼を人力車に乗せて彼女が海辺へ連れて行くクライマックスの素晴らしさはどうか劇場で確認してほしい。

さて、本作の山下敦弘監督は日本映画屈指のほんわかオフビートな映画作家だ。『天然コケッコー』(2007年)ではまだ10代だった岡田のみずみずしい姿を捉えた。同作でも郵便局が出てきて、ふてぶてしい顔した岡田が夏帆について入る場面がいい空気感を漂わせていた。
あれから15年以上が経過したとはいえ、30歳の非モテ残念ダサ男をそうしてこんなに自然に演じられるのか。静止した身体を引きづられ、海辺で清原に写真を撮られるハジメは、やられたい放題。まるでマネキンのようだが、時間を奪われ、冷凍保存されたような状態でもなお岡田の魅力は引き立つ。
現在33歳。岡田将生のありのままをこういうかたちで引き出してしまう山下監督は天才か。
ラスト、左目に涙をたたえながら、冒頭の「なんでぇ?」をつぶやく岡田を見て、“第二期まー君”時代が始まったなとしみじみ思った。
<文/加賀谷健>
加賀谷健
イケメン研究家 / (株)KKミュージック取締役
“イケメン研究家”として大学時代からイケメン俳優に関するコラムを多くの媒体で執筆。アーティストマネジメント、ダイナマイトボートレース等のCM作品やコンサートでのクラシック音楽監修、大手ディベロッパーの映像キャスティング・演出、アジア映画宣伝プロデュースを手掛ける。他に、LDHアーティストのオフィシャルレポート担当や特典映像の聞き手など。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。
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