
やっと到着した地下鉄の駅に降り立ってほっとしたのもつかの間。
エレベーターを探しても見当たらず駅員さんに聞くと、なんとこの駅にはエレベーターがありませんでした。エレベーターがない駅があると想像もしなかったので、大河内さんは呆然。
「階段を登るには一人では無理です。駅員さんに手伝いをお願いしました。すると、ベビーカーは畳まないと持てない規則なので、まずは0歳児を下ろしてくださいとのこと。その場でベビーカーにかけた大荷物をおろし、下の子を抱っこ紐に。その状態のままベビーカーを畳んで、荷物とベビーカーを駅員さんに運んでもらいました。ですが3歳の子の手をつなぎ、下の子を抱っこしたまま狭くて急な階段を登るのも本当に辛かったです」
また、駅員さんはベビーカーと荷物を置くと、そのままその場を立ち去ってしまったそうです。
やっと友人の家についたものの、すでにグッタリと疲れてしまった大河内さん。楽しめはしたものの、帰りの電車のことを考えると気が重くなってしまいました。
さすがに帰りは同じ駅から帰るのは無理と判断し、友人の家からできるだけ近くてエレベーターがある駅をスマホで調べて、その駅までタクシーで行きました。帰りの電車が混むことを考えるとあまり長居もできず、そそくさと帰ったと言います。
「東京は便利というけれど、それは大人がひとりで行動するときの話なのだと分かりました。ベビーカーや小さい子どもを連れて電車での外出は、本当にハードルが高いです。電車内でも子どもが愚図れば冷たい視線を浴びるし、階段やエレベーターがない場所で困っていても、誰も助けてくれず、みんな素通りして行ってしまうこともショックでした」
上の子どもを出産したときはオーストラリアの郊外に住んでいたという大河内さん。
そこではベビーカーのママや子連れの家族に親切で、電車に乗っても当然のようにベビーカーを運ぶ手伝いをしてくれる人が現れたり、子どもがぐずっても責めるどころか「かわいいわね」とあやしてくれたりする文化がありました。
「海外も日本も、それぞれ良いところはあるので一概には言えませんが、実際にオーストラリアと日本で子育てしてみて、日本では子連れが歓迎されない空気感をしみじみ感じました。人の混雑や道の狭さなど物理的な不便さもありますが、それよりもやはり子連れに対して“迷惑”という視線を感じることが一番のストレスでした。オーストラリアでは誰かしらが手を貸してくれるので、そんなストレスは感じませんでした」
大河内さんは都心部での育児に限界を感じたため、夫に相談。しばらくして夫の会社に通いやすい郊外に引っ越し、車を購入したそうです。
「子連れでも気楽なショッピングモールに車で行ける今の場所は快適です。あのときの辛い記憶がよみがえり、子どもが大きくなるまでは都会の電車に乗りたくありません」
日本は少子化の一途をたどっていますが、それは経済的な問題だけではなく、このように子どもが育てにくい「空気感」も原因のひとつであるのかもしれません。
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<文/塩辛いか乃>
塩辛いか乃
世の中の当たり前を疑うアラフィフ主婦ライター。同志社大学文学部英文学科卒。中3繊細マイペース息子と20歳年上の旦那と3人暮らし。乳がんサバイバー(乳房全摘手術・抗がん剤)。趣味はフラメンコ。ラクするための情熱は誰にも負けない効率モンスター。晩酌のお供はイオンのバーリアル。不眠症。
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@yukaikayukako
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