恋愛やミステリー要素も外せないが、このドラマにおいて、ふと出てくる深いセリフも見逃せないポイントである。
そもそも、長らくコモリビトだったすいが、父のため漫画のために苦手な人間関係に向き合う……。この時点で、ヒューマンドラマに欠かせない「葛藤、苦しみ」や「主人公の成長」がある。くわえて、シングルマザーである来栖編集長の言葉が、なんとも胸に迫るのだ。
「精神的にも経済的にも自立した女性は、ミニマムな愛を求めるようになる」。来栖編集長いわく、名付けるなら「積極的シングルマザー」とも言える存在だ。優秀な男性の子どもを産み、相手とは籍を入れず、自分と子どもだけの最小単位でシンプルに生きる。世間からは目をひそめられるような価値観かもしれない。しかし、当人が納得している生き方や選択を、他の誰が責められるだろうか。
このドラマの主軸は、「10年前の交通事故はなぜ起こったのか?」の謎、そして、すいを取り巻く恋愛模様である。しかし、思わず聞き流してしまいそうなちょっとしたセリフが、驚くほどにこのドラマの深みと厚みを増す要因になっているのは、間違いない。
<文/北村有>
北村有
葬儀業界を経て2018年からフリーランス。映画やドラマなどエンタメジャンルを中心に、コラムや取材記事を執筆。菅田将暉が好き。