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NHK『大奥』、“怪物”仲間由紀恵に魂の叫びは通用しない。理不尽の連続が辛すぎた

覆い隠された青い瞳の奥に、最後に映し出されていたのは

 しかし、意次と青沼の前に暗雲が立ちこめていく。大きかったのは、意次を重用してきた10代将軍家治(高田夏帆)が倒れたこと。  家治は、これまた治済の手の内にある侍医により長期間にわたって少量のヒ素を飲まされており、ヒ素中毒になっていたのだ。本来は禁止されている青沼の診察により判明するも、精神が崩壊している家治は、意次に「なにゆえ私がさように恨まれねばならぬ! そなたを引き立てたからか!」と激しく叱責。さらには青沼に「黙れ、バケモノ!」と強い言葉を浴びせた。  ショッキングな言葉に衝撃を受けた。だが、御台所・五十宮(趙珉和)に続き、一子・家基を亡くしていた家治は、もともとかなり精神が弱っていたところに、長期間にわたってヒ素を飲まされ続けていた事実を突きつけられた。そして、自分のみならず、急死した家基も毒を盛られた可能性を知ったのである。 「何が蘭学じゃ! あんなによくしてやったのに。その礼がこれか」の“これ”が指すのは、家治自身の状態だけでなく、家基を失ったことを含んでいるのだろう。耳にしたくないキツイ言葉ではあったが、家治もまた、“理不尽”の犠牲者でもあった。  家治はそのまま亡くなり、意次は老中職を解かれる。青沼は死罪を、青沼のもとで蘭学を学んだ黒木(玉置玲央)たちは大奥からの追放を言い渡された。  青沼は、「(死罪が)私だけで良かったんです!」と本心から口にする。「これで人痘の仕方は、後の世に伝えられます。いつか再び、世に人痘を求めるときが来ます。そのときは、みなさんお願いします」と。そしてひとりではここまで来られなかったと。そんな青沼の背に、みなが「先生と出会わなければ」空しき日々を過ごしていたと、「ありがとうございました!」とありったけの声を届けた。
大奥

(C)NHK

 遊女の子として、“あいのこ”として生まれた青沼は、辛い目に遭うと言われ続けてきた。確かに、その最後はあまりに“理不尽”だった。しかし、斬首されるその間際、白い布で覆われた青い瞳の奥には、源内や意次、仲間に求められ、みなで笑い、学び、語らい、たくさんの「ありがとう」をもらった、温かい日々が映っていた。

黒木の魂の叫びも届かない怪物が、ついに実権を握る

 源内の最後は、訪れた黒木が看取った。命の灯がいまにも消えそうな源内を前に、涙がこぼれんばかりの黒木を前に、もう源内の目は見えない。そんな源内に、黒木は優しい嘘をつく。人痘接種のこと、意次のこと、青沼のこと。女の蘭学者が生まれていること。 「そうなんだ。みんなに会いたいな」と漏らす源内の命が尽きるとき、黒木の言葉と手を通じて、暗闇を、きっと温かな光が照らしてくれたことだろう。  源内の名も青沼の名も、「没日録」の記録からは、黒い墨で完全に消された。しかし「源内がいたから」「青沼さんと出会ったから」と、出会ったみなの心に彼らの記憶はしっかりと刻まれた。そして彼らの志が結実した人痘接種の種は消えていない。
大奥

(C)NHK

 一方で、源内の命が尽きたとき、外で降りしきる雨は、体を突き刺す豪雨になっていた。「貴様らは母になった事がないのか!?」にはじまる黒木の叫びは、原作同様、屈指の名シーンとなった。しかし仮に、この叫びを目の前でぶつけたとして、暖簾に腕押しの相手がいるからこそ、こうした“理不尽”な仕打ちは起きた。  ついに権力の座につかんとする治済は、松平定信(安達祐実)と対面していた。「私ではないのよ、将軍になるのは。私の息子は人痘を受けたのですよ」と口角を上げる治済に「え?」と凍り付く定信。  医療編の後編がスタートする第14話では、3代家光公以来となる男将軍家斉(中村蒼)の治世となるが、実権を握る家斉の母・治済は、「なぜ?」「どうして?」が通用しない相手である。 <文/望月ふみ>
望月ふみ
70年代生まれのライター。ケーブルテレビガイド誌の編集を経てフリーランスに。映画系を軸にエンタメネタを執筆。現在はインタビューを中心に活動中。@mochi_fumi
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