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NHK『大奥』自分の孫に毒を盛る“バケモノ”仲間由紀恵は成敗、しかし呪縛のツケは溜まっていく

白いユリの花が、治済を見つめていた

大奥(C)NHK さて、家斉を演じた中村は、第14話での呆けた登場時こそ、よしながふみの原作コミックそのものだったが、物語が進むにつれ、彼が演じているからこそのふり幅を発揮した。中村の家斉は、バケモノのように恐ろしい母の支配下にありながら、恐怖で萎縮するだけでなく、志を持ってからは、翻訳局開設を老中たちに言い出す最初こそおどおどとしていたものの、それが通った際には、小躍りし、隠密作戦や瓦版作戦を喜々として編み出したりと、愛らしさを多分に含んでいた。  また、狂ってしまった(と見えた)御台・茂姫(蓮佛美沙子)への心配りも止めることがなかった。そんな家斉だからこそ、熊痘を知った治済が、青沼らを「罪人」と呼んだことに意義を唱え、刀に手をかけるまでの行動に出たり、御台とお志賀(佐津川愛美)の復讐を知って、彼女たちを裁かなかったと同時に、「たとえバケモノでも」母を救ってほしい、「匙(侍医)を呼んでほしい」と懇願する姿にも、不自然さがなかった。これらの流れには、原作とかなり違う部分が含まれているのだが、中村の演じる将軍だったからこそ、自然に受け入れられるところが大きかったと言える。 大奥(C)NHK そしてもちろん、仲間の圧倒的に美しく恐ろしいバケモノには、文句のつけようがなかった。最後には息子にまで毒を盛った母。自分が権力を手にするために、息子に人痘を接種させて将軍とし、盾突くというのなら、間引いたところでまだ残る、孫の誰かに挿げ替えればいいとしか思わぬ女。しかし間引いた孫の母たちが黙っていなかった。  何より退屈を嫌った治済は、口もきけず体も自由に動かぬ寝たきりの姿で、死ぬまでを過ごすことになった。  自らの人生の駒に息子を使い、もう使えないと悟るや毒を盛ることも厭わない治済だったが、先にも述べたように、彼女が人痘を接種させたその息子が、赤面疱瘡撲滅の最後の一押しを担い、結果的に世の人々を救ったのである。復讐の場で降りしきっていた雨がすっきりと晴れ、白いユリの花が、日の光に照らされ美しく咲いていた。聖母マリアの象徴とも言われるその花が、動けぬ治済を庭から見つめていたのが、とても皮肉めいていた。

男女の役割が逆転、幕末編がスタート

 ふたたび姿を見せ「男の数を、女の数と同じだけ増やすのだ!」と申し付ける家斉の姿には、すっかり愛らしさが消えていた。第14話のラストで、黒木のもとを訪ねたときの家斉は「男が女子と同じ力を持てる。男とて、女子を守れる、そんな世に変えたいのだ」と宣言した時の思いとは少し異なって映った。  一方、家斉の志に“不覚にも”心を打たれたと言った松方(前田公輝)は、治済が動けなくなる以前から「男子が死なぬ世になれば、女子ばかりが“のさばる”世も終わるのではないか」と口にしており、同じ、“男女が同じ数になる世”でも、その先に何を目指しているのかは分からない。  時は過ぎ、世の中は大きく変化していた。赤面疱瘡は防げる病となり、男女の役割は逆転。家斉は白髪が多い年齢となっていたが、登城した阿部正弘(瀧内公美)が家斉を「上様」と呼んでいたことからも、第15話終盤の時点では、まだ家斉は将軍職に就いている。史実でも、家慶が12代将軍となったのは45歳のとき。早くから後継とは決まっていたのにだ。しかも家斉はその後も大御所として政を行った。何もさせてもらえなかった家慶は“そうせい将軍”と揶揄されている。  第16話からは、いよいよ幕末編がスタート。家慶(高嶋政伸)が祖母・治済のバケモノの“血”を受け継いでしまっているらしく、そのバケモノぶりを想像するだけで、すでに鳥肌が立ちそうだ。同時に、将軍家としての本来の継承を行ってこなかったことがバケモノを生んでいるのだとも感じてしまう。そうした徳川の世が終焉へと向かっていくのは、自然の流れだとも。そんななかで、再度、男女の役割が逆転した世界がどんな意味を持ってくるのか。パラレルワールドによって私たちの生きる世界を炙り出してもきた物語が、より私たちに近づいてくる。 <文/望月ふみ>
望月ふみ
70年代生まれのライター。ケーブルテレビガイド誌の編集を経てフリーランスに。映画系を軸にエンタメネタを執筆。現在はインタビューを中心に活動中。@mochi_fumi
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