
大奥(C)NHK
時代の変化が生んだ人物として、古川雄大演じる瀧山も重要だ。彼もまた、男女逆転が行われていた歴史のなかで生まれた、ハイブリッド的な存在である。
大奥総取締役(そうとりしまりやく)に抜擢されるまで瀧山は陰間として生計を立てていた。花魁(おいらん)の扮装は、男性経験の少ない女性をリラックスさせるためで、それがいつの間にか、女性の扮装として取り入れられた。そんな瀧山が作る大奥は、女性将軍を守る者たちの集まりとなる。

大奥(C)NHK
家斉の悲願を実現した瀧山は、花魁の衣裳を着たとき、美しいが、いわゆる歌舞伎の女方のように、肩を落とし、女性らしく華奢に見せるのではなく、自身そのもので着こなし、ほどよく鍛えられた高身長の男性だからこそ、重い衣裳を着こなせるのだというふうに見える(そう思うと、女性の花魁ってすごいのだが)。そして、それが凛々しく、女性を守る男性たちの集団・大奥の総取締として毅然(きぜん)と輝くのだ。
瀧山を演じる古川の所作は、優雅さと強さを兼ね備えている。また、時折見せるほどよいユーモラスな表情も良い。流水紋を胤篤が身につけて着られなくなってしまったときの落胆、でもその感情を認めたくないというような一連の表情は、原作よりも多めに描かれ、古川は軽やかに演じていた。
Season2では仲間由紀恵や安達祐実、松下奈緒、鈴木杏などの女性陣の存在感が強烈だったが、福士蒼汰と古川雄大の登場でがぜん、華やいでいる。
<文/木俣冬>
木俣冬
フリーライター。ドラマ、映画、演劇などエンタメ作品に関するルポルタージュ、インタビュー、レビューなどを執筆。ノベライズも手がける。『ネットと朝ドラ』『
みんなの朝ドラ』など著書多数、蜷川幸雄『身体的物語論』の企画構成など。Twitter:
@kamitonami