地方企業の暗黙ルール=「男性のカップは女性が洗う」従わず呼び出された40代独身女性の“意外なその後”
モモエさんは、彼女に対して腹立たしいとか、同じく洗うのを放棄してほしいとか、そんなことは思っていなさそうだった。ただ、女性は男性のケアをするという価値観に適応する女性と、そうでない女性がいるだけなのだと承知している。
「と言いつつ、実は私、気が利く性格なんですよ。空気を読み、何ごとも先回りして動くのが好きでした。そのぶん、それができない女性のことを低く見ているところもあったかな。でも自分では人の役に立っているつもりでも、実際には人から“ただ”で使われていただけだった、と気づいたんですよ」
いったん気づいてしまうと、もう戻れない。男性職員のカップは洗わないと宣言したモモエさん、話はそれで終わりかと思っていたら後日、部の全体会議が開かれた。
「テーマは、私がカップを洗わない問題です。部署の全員が業務を止めてまでする話なんでしょうか……」
もともと女性が長く勤められない会社だと、モモエさんは感じていた。結婚後も働く女性はいるが、子どもを育てながら働いている女性はいない。妊娠したら、だいたい退職する。
「自分たちのケアをしない女性がいる、っていうのが彼らには衝撃だったようです。ケアをしないだけでなく、モノを言う女性なんだから、想定外もいいところだったのでしょう」
部署全体会議が終わった後、モモエさんは本社のハラスメント相談窓口に電話をした。この会社には、はっきりとした男尊女卑の価値観がある。ここでいつまで働くのかな、という気持ちは、うっすらとではあるが消えたことがなかった。
そして、それは会社だけではない。そもそも地域にその価値観が根付いていて、会社はそれを反映しているだけともいえる。
地元を出たい。これもやはり消えることなく長いあいだ胸に巣食っていた願望だった。このあたりでは、女性は誰かに所属することを求められる。生家に所属するか、結婚して夫に所属するか。そうなると、自分で何かを決めることは歓迎されない。
気が利く=無料ケア労働を提供

会社だけの問題ではなかった
