
©2023 映画「隣人X 疑惑の彼女」製作委員会 ©パリュスあや子/講談社
この物語には、もう1組、重要な人物たちがいる。
良子と同じく、惑星難民X候補で、台湾から留学に来ているレン(黃姵嘉〈ファン・ペイチャ〉)と、その恋人でバンドをやっている拓真(野村周平)の物語が、笹と良子の物語と平行して進行する。
レンは、良子と同じコンビニと、拓真と同じ居酒屋の掛け持ちバイトをしながら、日本語を勉強している。
でもなかなか日本語が上達せず、日本人とのコミュニケーションがうまくいかない。
惑星難民Xと地球人の関わりのような宇宙規模の問題のみならず、地球の中でさえ、国や民族、文化の違いを埋めることもままならない。
さらに、同じ日本人同士でも、生活環境や地位やお金を持っているかいないかなどの違いで、互いの関わりは分断される。
編集部で上司に厳しくされたり、家庭の事情に悩んだりしている笹、夢はあってもうまくいかないレン、自己肯定感の低い良子……彼らは本人たちの問題ではなく、いまの社会で片隅に追いやられ、生き辛い毎日を送っている。
笹と良子はお互いを励ましあい、レンには拓真が味方になってくれ、それぞれに救いの光が灯るが……。

©2023 映画「隣人X 疑惑の彼女」製作委員会 ©パリュスあや子/講談社
この4人の誠実な芝居がいい。
謎の良子を演じる上野樹里は、17年前、二十歳のときの出世作で、先日舞台化もされた『のだめカンタービレ』では、クセの強い、天才ピアニストを大胆にのびのび演じるイメージの一方で、何を考えているかわからないミステリアスな雰囲気も醸せる俳優。
今回も、良子は惑星難民Xなのかそうではないのか、わからない瞳をしていた。
林遣都は、無精髭(ぶしょうひげ)を生やして、すこしやさぐれた週刊誌記者を演じている。彼の瞳はいつだって純粋に光っていて、惑星難民Xを偏見に満ちた記事化するのかしないのかと思ったとき、きっとしないに違いないと信じたい気持ちにさせる。
先日、音楽劇『浅草キッド』では浅草で修業していた若き頃のビートたけしを演じるほど、生活者を演じるに長けているから、悩める若者・笹の共感度が上がる。
リン・イレンは台湾の実力派で、野村周平は偏見のないやさしい好青年を好演している。
ほかに、バカリズムがごくふつうの編集者の役で出演していたり、酒向芳にふわっと髪のボリュームがあったりして、どこか先入観を覆すキャスティングや、滋賀県彦根市で主にロケを行い、彦根の街を東京の街として撮っているということも、私たちの心の尺度を図る仕掛けのような気もして……。