上野樹里『のだめ』から17年、ミステリアスな瞳で魅せる!自分の隣にいる人は本当は誰なのか
上野樹里が7年ぶりに主演した映画『隣人X―疑惑の彼女―』(熊澤尚人監督)はSFエンタメか、それとも社会派映画か――。はっきり言えば、どちらの魅力も兼ね備えている。
出だしから心がざわつく。公表されている映画のあらすじはこうだ。
“惑星Xで紛争が起き、助けを求めてきた難民を、アメリカ政府は【惑星難民X】として受け入れた。Xは人間の姿に擬態化できる能力があり、人間を決して傷つけない固有性を持っていたからだ。
日本もアメリカに追従するように、受け入れを決定。しかし、誰もが謎の存在Xに不安を感じ、自分の隣にいる人が本当はXではないのか?と不安を抱いていた。”
原作は、第14回小説現代長編新人賞を受賞した新鋭・パリュスあや子の同名小説だ。
【惑星難民X】を追うのは、週刊東都記者・笹(林遣都)。主要な記事を任せてもらえず、ラーメン記事担当をしている。
が、このままだと契約解除されてしまいそうで、笹はX関連の記事でスクープをとろうと野心を抱く。
笹は、宝くじ売り場とコンビニを掛け持ちで働いている良子(上野樹里)が【惑星難民X】ではないかという情報を得て、彼女を追うも、いつの間にか、取材なのか、恋なのか、よくわからない雰囲気に……。
もしかして笹は、良子に恋するふりして近づいているのかも? という疑惑も残しつつ、順調なくらい仲が深まっていく笹と良子。
最初から、笹がかなり素直に、自分の仕事(記者)と目的(惑星難民X取材)を明かしていることや、対する良子が、若干引きつつも、結局、笹にほだされて、受け入れている様子に、首をかしげることは否めない。
“誰もが謎の存在Xに不安を感じ、自分の隣にいる人が本当はXではないのか? と不安を抱いていた”のではないのか。無防備過ぎる。
だが、そう思った時点で、この物語の問いかける根深い問題に自らハマってしまっているということなのである。
『隣人X』は“心”の物語であり、現代社会で誰もが少なからず抱えている隣人への警戒心や偏見をいかに取り払うか問いかける物語なのだ。
そういう意味では、笹は素直に自己開示し、良子は素直に笹の第一印象を信じて、彼の誘いに応じる。なんて、すてきなふたりであろうか。
とはいえ、現実では見知らぬ人の声がけには注意したほうがいい。いや、警戒しないといけない世界を失くす努力を、これから心がけていきたいと思う。という自戒はさておく。
良子は仕事の忙しい笹を支え、安らぎを与え、笹は良子が優秀にもかかわらず、自己肯定感が低く、控えめすぎることを気にかけ、もっと自信や夢を持つように助言する。ふたりが一緒にいれば幸福になりそうだが、笹には惑星難民Xのスクープが必要で、それがふたりの仲を阻(はば)んでいく。
もし、良子がほんとうに惑星難民Xだったら笹はどうするのか? 惑星難民Xは人間を決して傷つけないと安心していいのだろうか……。
謎は謎を呼び、待ち構えるのは、意外な展開だ。
映画の開始、1時間くらいで、がらっと様相が変わっていくところで、気持ちがぐっと持っていかれ、あとはもう、ぐんぐんと加速していく物語と、笹と良子の心模様に目が離せなくなる。