世界中に広まった「かわいい」という概念は、元来は自分よりも弱く小さいものに対する言葉ですが、純粋に愛すべき点を称えるために使っている人も多いといえます。「キモかわいい」「かわいいおじさん」など、「かわいい」という言葉の使われ方は、時代によって変化し続けているのです。
しかし、小児性犯罪者の用いる「かわいい」は、また別の意味を持っています。その真意は、「子どもが『かわいい』から自分たちは犯行に及んだ」というものです。本来「かわいい」と称される存在は、守るべきものであるはず。では、なぜ彼らはこのような考えに至るのでしょうか。
彼らの用いる「かわいい」という言葉の背景には、「自分を絶対に脅かさない保証」が含まれています。具体的にいえば、成人女性のように恐怖心を与えられたり、外見や収入で差別されたり、存在そのものを脅かされたりせず、無条件に自分のことを受け入れてくれるということです。

実は、加害者のなかには過酷な逆境体験をサバイブしてきた人もいます。学校でいじめられた(性被害にあった)、家庭で虐待にあった、異性から人間扱いされなかった……などの経験です。これは小児性犯罪者特有の傾向でもあります。
このような逆境体験は加害者にとって、自分が他人から拒絶された、「自分は受け入れられていない」と感じるつらい出来事です。当院のデータでも、小児性犯罪者117名に学生時代のいじめ被害について聞いたところ、半数以上の54%が「ある」と答えています。
本来人間は「受け入れられたい」と望む生き物です。これは心理学者アブラハム・マズローが提唱した有名な「マズローの欲求5段階説」のうち、友人や家庭、会社から受け入れられたいという「社会的欲求」にあたります。
この欲求が満たされない状態が続くと、孤独感や社会的不安を感じやすくなり、うつに陥るケースもあるともいわれています。
本来、人間ならば誰もが持っている「受け入れられたい」という欲求が、いじめや虐待などの逆境体験によって抑圧され、それが恨みとなり、加害者のなかで「自分より弱い者を虐げたい」という欲求に変換されることがあります。