片岡愛之助のルパンは凄かった。

これまでも人気アニメやゲームの歌舞伎化は概(おおむ)ね評価が高く、『風の谷のナウシカ』『ONE PIECE』『ファイナルファンタジー』『刀剣乱舞』など続々歌舞伎化されている。歌舞伎という表現があまりにもアニメやゲームの世界と違うので、逆におもしろく、互いにリスペクトし合い、ときには親和性すら感じるようなところもある。
なんといっても、表層ではなく、核の部分を掘り下げるから、胸を打つ。そして、原作に丁寧に向き合いながらも最終的に、長い歴史を誇る歌舞伎の伝統芸を見せつけるというスタイルも、アニメやゲームファンを圧倒する。今回のルパンもそうであった。話がシンプルな分、よけいに盛り上がる。
もちろん、表層(ビジュアル)も大事な要素ではあって、歌舞伎役者たちは、研究に研究を重ねて、ビジュアルも近づけていく。そんな作業において、これまでの作品群は、ややファンタジックな世界を描いたものだから、なんとかうまくいっていたと思うのだが、『ルパン三世』はどうだ。カリカチュアされているとはいえ、彼らはふつうにジャケットやコート姿である(石川五右衛門は着物だけれど)。
そんな現代劇をどうやって歌舞伎化するのだろう? と思ったら、舞台を安土桃山時代に移し、過去にやって来たルパンと次元大介(市川笑三郎)が、この時代にいる元祖・石川五右衛門(尾上松也)と出会うというなかなか洒落(しゃれ)た設定になっていた。これなら、ルパンと次元がスーツじゃなくてもいい。銭形警部(市川中車 香川照之)も峰不二子(市川笑也)も着物姿がお似合いであった。
ルパンは、大泥棒と仲間たちという設定さえ守れば、いろいろな話が作れる。だからこそ息長く続いていて、歌舞伎版も、ルパンが時代劇の世界で大暴れという番外編的な話として、違和感なく楽しめるものになっていた。