「彼らがそんなグレードにする必要ないといくら反対しても、施設長は、信頼している先生がそう言うから、と聞く耳を持たないそうです。私が想像するに、療法士に車のバッグマージンでも発生しているのでしょうか」 そもそも、車の波動とは何なのか……。さらに、療法士の紹介で施設に雇われたスタッフも、相当に怪しい。 「なんと仮想通貨マルチの、勧誘をしていたんです。施設を利用しているお母さんたちのあいだで、あっという間に広まりました」 マルチ商法の勧誘は、諸事情で就労がむずかしい人をターゲットにするパターンも非常に多い。 就労はおろか、睡眠時間の確保さえ困難だと言われる医療的ケア児の母親たちが、「ちょっとした空き時間で自分のペースで稼げる」ともちかけられる光景が、目に浮かぶようである。 「いまのところは、そのマルチによって破産しただの人間関係が破綻しただののトラブルは聞こえてきませんが、もう時間の問題でしょう。医療的ケア児の助けになればと開いた施設なのに、なぜこんなことに……と施設の共同経営者たちは頭を抱えています」 療法士みずからが母親たちを勧誘して回ったり、直接モノを売り込んだりするならともかく、自分は矢面に立たず、施設長やスタッフを手ゴマに利益を吸い上げている感じが、何とも不気味である。 悩みの多い人が集まる場所で、さまざまな沼が発生するのは当然の流れなのだろう。しかし、春奈さんの目撃しているこの沼は、搾取の匂いが濃厚だ。悩める親の不安感につけこむビジネスは多種多様にあるが、これもまたそのひとつである。 ＜取材・文／山田ノジル＞