施設長自身も、療法士を全面的に信頼していた。 「一番下の息子の扱いがむずかしい。どう接すればいいのか、わからない……」 そんな相談を持ち掛けると、霊視を行った療法士からこう告げられたそうだ。 「息子さんとあなたは、前世が恋人だったんですよね。それゆえあなたは、彼を性的な目で見ている可能性がある。だから、親子関係が歪（ゆが）むんです」 もし自分がそう言われたらどうするだろう？ 斬新なアドバイスだな……と、真に受けずに軽く受け流して、そっと距離を置くだろうか。 ところが施設長は、その設定にどっぶりハマったという。 「昨日もケンカしちゃったんだけど、私が息子をひとりの男性として見てしまっているから悪いのよね……。業を自覚しなくては」 「先生からあんな話を聞いたからか、おやすみのハグをしたときちょっとドキッとしちゃう」 春奈さんは、眉をひそめる。 「事あるごとに、私たちにこんなことを話すんです。ランチの席で。そんな話に、一体何と返せばいいのか……。でも、施設長の“愚痴”を否定すると、激高される。だから困惑を浮かべた表情の同席者とチラリと目くばせして、何もつっこむなとけん制しあいつつ、そうなんですね、としか返しようがありません。願わくは、自分の母親がそんなことを言っていると、彼女の息子さんの耳に入りませんように……」 さらに心配なのは、その混乱した関係を浄化するためにと、施設長が療法士から高額なパワーストーンを購入していることだ。