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芸歴30年を迎えた劇団ひとりが語る意外な心中「もっと上手くできるようになると思ってた」

芸歴30周年を迎え「すごい商売だなと思う」

劇場版「マーダー★ミステリー 探偵・斑目瑞男の事件簿」――ひとりさんは1993年のデビューから今年で芸歴30周年を迎えました。“劇団ひとり”となってからは来年で25年になります。その間に小説を出され、映画監督としても作品を出されて活躍の場を広げていますが、節目という意味で何か思うことはありますか? ひとり:長いですよね。そんなにやっているとは思えないくらい、確固たる自信みたいなのを持てないことが、すごい商売だなと思うんですよ。まあ別に僕に限ったことじゃなくて、たぶん師匠クラスの人たちもそうだと思うんですけど、何十年もやってるのに平気でスベったりするじゃないですか。これ、なかなかあんまりない商売だと思うんです。 ――要は失敗が多いということ? ひとり:さすがに30年寿司握っていれば、間違えておにぎり出しちゃうみたいなことはないじゃないですか。でも僕ら平気でやるんすよね。なんならラーメン持ってきて「あれ? 違いましたっけ」ってくらい大きくスベったりする。だから逆に言うと、飽きずに続けられてんだろうなっていう感じはします。 ――お笑いは、そんな簡単じゃないってことですね。 ひとり:簡単じゃないですね。当然経験はついてきたし、昔に比べたら多少は上手くできているんだろうけど、まあそれでもツルツルにスベることは多々ありますから。それは別に僕もそうだけど、売れてるって言われてる人たちでさえも、そんな瞬間なんて山ほどあるわけですよ。 だから、どんなにすごいって言われてる人でさえ、ちゃんと数えたら実質5割ぐらいじゃないかなって思うんですよ。惰性で笑っている時はあるけど、ちゃんとカウントしたら5割ぐらいだと思いますよ。難しいから。だから、面白いんだなと思うんですよ。

“悔しいという気持ち”が自分にとって大事な価値観

劇団ひとり――なかなか極められないから続けていられる職業なんですね。 ひとり:もしも僕がもう完全にお笑いっていうものを攻略して10割いつでも好きな笑いを取れてるってなったら、とっくに辞めてるかもしれないです。まあ、そうなりたくて頑張ってるけど、実際そうなっちゃったら、辞めてんのかもしんないです。もう飽きちゃってね。 やっぱり「ウケるかな? スベっちゃうのかなあ? ダメだったかな」とか、そういうのがあるから面白いんだろうなと思います。それは別にお笑いに限んないけど、世の中にある全部の仕事、スポーツにしたってそうかもしれないけれど、上手くいかなくて、そのことにちゃんと悔しがれるっていうのがないと。 逆にその悔しいっていう気持ちがあるってことが、自分にとっての大事な価値観なのかもしんないですね。だって僕が別にバッターボックスに立って三振したって何も悔しくないけど、それは僕にとっての野球だからで、野球選手からしたら、なんであの球が打てなかったんだってって、夜も眠れないわけでしょ。 逆にその野球選手が、バラエティのコメントでスベって夜眠れないってことはないと思うんですよ。やっぱり自分がどこに対して悔しいって思うかは、自分にとっての価値観なんだろうなとは思いますけど。その悔しいも、糧にしてってことですよね。糧にして、明日はもうちょっと、と。悔しいから、またやりたくなるんでしょうね。 ――簡単にできちゃったら、確かにつまらなそうです。 ひとり:ね。簡単に出来るようになりたくて練習してんだけど、実際になっちゃったらつまんないんだろうなっていう。だからすごい矛盾してますよね。まあ、なんでもそうだと思うんですけど。ゴルフ好きだけど、ゴルフなんか全然上手くなんないんですよ。 もう10年以上やってるけれど。でも毎回落ち込んで帰るんすけど、だから面白いんだろうなと思うんです。今回の映画だって、簡単に謎が解けちゃったらつまんないんですよ。開始早々5分でもう犯人分かったってなったら、たぶんやっても何も面白くないでしょうね。 だから人生ってのは、ほどよく難しいのがちょうどいいんでしょうね。難しすぎると今度は投げちゃうから。ちゃんとご褒美ももらいつつ、悔しがるっていう、そのくらいがちょうどいい。
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30年もやっていたらもっと上手くなると思っていた
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