
本作の主人公・猪爪寅子は、戦中に日本初の女性弁護士、戦後には裁判官となった三淵嘉子をモデルにしている。2023年後期朝ドラ『ブギウギ』のモデルとなった笠置シヅ子と同い年(1914年生まれ)でもある。
第1週第1回では、1931年、寅子の女学校時代が描かれる。寅子はお見合いにあまり乗り気になれず反抗的な態度を重ねる。3度目の正直とばかりに会った横山太一郎(藤森慎吾)とは社会情勢の意見交換で意気投合したかと思えば、「分をわきまえなさい。女のくせに生意気な」と話を切り上げられてしまう。
そんなとき、寅子はきまって首を傾げ、「はて」とつぶやく。因習にとらわれた世相に投げかける素朴な疑問形だが、なるほどこの「はて」がどうやら伊藤の演技を本作中にとどめ、安定させているようなのだ。
というのも、今回の伊藤は、どうも戦前を生きるキャラクターを演じるにはちょっと今っぽい佇まいかなと思うところがあるからだ。いってしまえば、未来から過去にタイムスリップしてきたような雰囲気。
ちょうどいいたとえがある。現代のOL(伊藤沙莉)宅にある日、平安時代から光源氏(千葉雄大)がタイムスリップしてきた『いいね!光源氏くん』(NHK総合、2020年)の逆バージョンみたいな。そこでうまく彼女を作品内に定着させる機能を果たしているのが、あの「はて」なのだ。
「はて」が過去への疑問符であるとするなら、寅子自身は根っから未来を見据えた人。慣習に縛られた当時の社会では、未知の未来人と捉えるられていたかもしれない。猪爪寅子のシグニチャーとなる「はて」を駆使する伊藤は、ドラマ内の現在として過去と未来をつないでいるともいえる。