伊藤沙莉の朝ドラヒロインは何かが違う!主人公をオテンバ・おっちょこちょいにしない、脱“あるある”『虎に翼』の新しさ|瀧波ユカリさん
しかも寅子はファーストシーンで、日本国憲法の条文を読み上げていた。1946年、戦争の爪痕が生々しい街を歩き、司法省(現在の法務省)に向かう。
物語はそこから、主人公の少女時代へと時間を巻き戻す。その展開自体は“朝ドラあるある”だが、瀧波さんは、女学校に通い、お見合いで“二連敗”し、結婚に疑問をもつ寅子を見て「アップデートされている!」と感じ、Xにポストした。
〈#虎に翼 は、朝ドラあるあるな設定や展開を全て疑いアップデートしている。
・主人公をおてんばやおっちょこちょいにしない。
・お見合いで男になじられるシーンで主人公に恥の感情を与えない。
・結婚式で主人公に感動させない。
・母の情に少しも流されない。
・男が母を説得する構図にしない。〉
――2024年4月5日
この投稿に1.3万以上の「いいね」が集まった。賛同した人がそれだけ多いということだろう。さらに詳しく解説していただこう。
朝ドラにおいて、“明るく、元気”は“おてんばで、おっちょこちょい”とほぼ同義。これまでの朝ドラ主人公の典型のひとつであった。
「女性主人公にはえてして、“愛される”性格が付与されがちです。この国において女性が愛されるとは、存在を“許される”と同義でもあります。おてんばは少女期だけに許される愛すべき逸脱(いつだつ)なんです。通常、成人女性に“おてんば”は使いませんから。
おっちょこちょいは“誰かが世話してやらないといけない、ほっとけない存在”として、女性としてそこそこの逸脱があろうと許してやろう、と思わせる効果があります」
これまで、そこにはドラマ演出上の必然性もあったと瀧波さんは看破する。
「女性があわただしく動き回って事件を巻き起こし、話を次々に展開させ、それでいて『女のくせにあんなことを』と観る者に思わせない活劇にする……ために、おてんばでおっちょこちょい、という設定は非常に都合がよいのです。しかしそれは、現実を生きる女性たちに対して、知的でしっかりした女性像が示されないということになります」
半年にわたる放映の第1週目にしてすでに、このドラマは“おてんばで、おっちょこちょい”を封印したのだと、視聴者に示したことになる。




