――毒母には共通する心理的特徴があるのでしょうか?

旦木:「母親はこうあるべし」という考えに囚われている人が多い気がします。“らしさ”に囚われ、自分自身を必要以上に責めて、自分の中でうまくいかない葛藤を娘にぶつけてしまっている傾向があります。例えば、姑や夫とうまくいっていない人。職場やママ友などとうまく人間関係が築けない人などです。もちろん毒母からの影響も多大に受けていて、そのストレスが娘に向いてしまい、そこに母親自身が気づいていないケースが多いです。
例えば第3章に登場する金山さん(仮名・40代)の母親は、看護師で仕事ができる女性ですが、家事・育児は苦手でした。そのせいで、同居している姑や夫(金山さんの父)にいつも注意されており、姑だけでなく、夫との仲も険悪になっていました。そのため母親は仕事に逃げ、子育てや家事を姑や夫にまかせきりにしました。
おそらく金山さんの母親は、姑や夫から受けるストレスや、姑のように家事・育児ができない自分に対する憤りを、娘である金山さんにぶつけていたのだと思います。金山さんが大きくなると、「女は大学に入っても金がかかるだけでダメだ」と自分と同じ看護師になるように指示し、金山さんを看護学校に入学させました。これは金山さんの母親が、娘である金山さんと、境界線が引けていないという現れだと考えます。
――ちょっと待ってください。なぜ、金山さんは、自分を愛してくれない母親と同じ仕事に就こうとし、実家から離れなかったのでしょうか? さっさと家から出たほうが幸せになれると思うのですが。

旦木:毒親育ちの子どもの多くが、大人になるまで自分の親が毒親だと気づかず、親に認められたいあまりに、いつまでも毒親から離れられないんです。離れられないから、苦しめられ続ける。金山さんは母親の共感や愛情がほしくて言動を起こしているのですが、母親には通じず、すべて裏目に出て苦しみ続けていました。
母親は「こうなりたい自分の理想」を娘に押し付けてコントロールを強化し、どんどん自分と娘の境界線がなくなっていく。娘は娘で「母親の愛情が欲しいからそばにいる」という共依存関係に陥ってしまっていたのです。