人間味というと、ちょっとアグレッシブ過ぎるんじゃないかとたまに心配になる寅子にまさる人はいない。でもだから、寅子の熱量に対して、一見冷めたように感じられる等一郎という存在が際立つ。
弁護士になってからの寅子はなかなかうまくいかないことのほうが多い。そんなとき、書生から夫になった優三が側で手放しに温めてくれる。それでも外(社会)の肌寒さが身にしみて、妊娠による体調の悪さも重なってどうも心が冷たくなる。すると必ず等一郎がヌッと顔をのぞかせる。
戦時下の風が吹く第8週第37回。閉店が決まった竹もとで、重圧に耐えられなくなった先輩・久保田聡子((小林涼子)から弁護士を辞めると告げられ、婦人弁護士の同志が減ったことを侘びしく思う寅子。彼女が座る席の奥の座敷席、衝立越しに男性の肩……。あぁ、等一郎だなと思ったら、やっぱりそう。

微動だにせずとも肩で主張してしまう松山ケンイチ。おあずけになっていた団子を頬張る等一郎。早替えのように目まぐるしいハの字からヘの字へ。明律大学の講演に呼んでくれた穂高と寅子が言い合うときにも部屋の外で静かに等一郎は腕組みして仁王立ち。
静かだけれど、なんだか熱いものを感じる。本作で一番熱い人は、松山ケンイチ扮する、この桂場等一郎なのかもしれない。学者としての含蓄は確かだが、どうもトンチンカンな了見で寅子を腹立たせてしまう穂高の一方で、冷血漢に見える等一郎が実は寅子の理解者なのだ。
第10週第46回、戦後1947年、家族を養うために職を得ようと寅子が司法省に赴く。ここで第1話冒頭場面に接続される。取り合おうとしない等一郎をもろともせずに食い下がる寅子。
彼女の態度を気に入った民法調査室の主任・久藤頼安(沢村一樹)の口添えで寅子は、事務官として働くことになるが、どうも彼女は無の感情になる「スンッ」状態に陥り、なかなか実力を発揮できない。そんな彼女を見て、等一郎は直接的な助け舟を出すわけではない。でも彼は彼女が再起する瞬間を待っている。
第49話、またしてもトンチンカンな穂高によって寅子が覚醒の「はて」を連発する。寅子の後ろにじっと立っている等一郎が、ハッとした顔をする。
その直前には休憩中に甘い物を食べようとして、またしても寅子が話しかけてきて寸止めをくらっているというのに。やっぱり熱い人である。
<文/加賀谷健>
加賀谷健
コラムニスト/アジア映画配給・宣伝プロデューサー/クラシック音楽監修
俳優の演技を独自視点で分析する“イケメン・サーチャー”として「イケメン研究」をテーマにコラムを多数執筆。 CMや映画のクラシック音楽監修、 ドラマ脚本のプロットライター他、2025年からアジア映画配給と宣伝プロデュース。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業 X:
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