朝ドラ『虎に翼』仲野太賀の“忘れがたい一瞬の表情”。優三亡き今だから振り返りたい名場面
第50回までくると、それぞれの事情で馴染の顔ぶれが、どんどん画面上から退場していく。
でも今回の連続テレビ小説『虎に翼』(NHK総合、午前8時放送)がひと味違うのは、退場した人を想像上の人物として再登場することである。
イケメン研究をライフワークとする“イケメン・サーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が、愛すべきキャラクターを演じ切った仲野太賀の再登場を考える。
ずいぶん芸達者な人である。『虎に翼』で主人公・猪爪寅子(伊藤沙莉)の家で高等試験を受けては失敗する書生・佐田優三を演じる仲野太賀を見ていると、作品内で描かれる戦前の情勢に明るくない視聴者でもどんどん視界が開けていく。
かと言って変に説明的な案内人にならないところがなおいい。その上で、仲野は、視聴者に対してキャラクターの魅力的な内面を開陳する塩梅を心得ている。具体的には、緊張とゆるみの演技によって。
例えば、第4週第20回。父・猪爪直言(岡部たかし)の逮捕を受けて打ちひしがれる寅子を優三が励まそうとする場面。不意打ちの腹痛で吹き出しそうになる。でも我慢。その繰り返しの中で織り上がる仲野の演技は、緊張とゆるみに裏打ちされた名演と言って差し支えないだろう。
同場面だけでなく、優三は何かと骨を折ることになる。第21回、猪爪家の非常時、彼がいろいろと世話を焼いているところへ、直言の弁護を引き受ける法学者・穂高重親(小林薫)を連れてくるのが、寅子とは明律大学の同期生である花岡悟(岩田剛典)。
家長に代わって猪爪家を支えようとする優三を見た花岡が寅子の兄だと勘違いする。寅子に気がある花岡は、勘違いだと気づくやいなや、嫉妬の眼差しで目を泳がせる。
寅子から「家族」だと言われた優三は、嬉しそうにする。三角関係がにわかに成立した瞬間、妙に改まった優三と花岡が目を合わせて静かに会釈をするのだが、これは緊張とゆるみが見事に噛み合った名共演場面ではないか。仲野と岩田による共演での演技の偏差がさりげなく華麗であり、鮮やかな見応えだ。
繰り返しの中で織り上がる名演
岩田剛典との共演場面
