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朝ドラ『虎に翼』仲野太賀の“忘れがたい一瞬の表情”。優三亡き今だから振り返りたい名場面

チャップリンさながらのペーソス

 寅子との間に第一子が誕生する。戦時下だけれど、夫婦だけでこっそり美味しいものを食べて心の平穏を共有する日々。そこへ赤紙が。いざ届くと、「おめでとうございます」なんてすぐに出てこない。  第8週第40回。優三の出征を寅子は変顔で見送る。優三も変顔で返す。それぞれ、思い思いの表情。でもこらえきれない優三が顔をくしゃくしゃにして、こみあげるものを必死でおさえる。でもダメで、やっぱりこみあげてくる。この場面でのこらえ涙もまた仲野による繰り返しの演技。  そして一本道を歩いていくエモーショナルな背中は、チャーリー・チャップリンさながらのペーソスを漂わせる。優三が出征する1944年、チャップリンが同年齢の独裁者アドルフ・ヒトラー率いるナチス・ドイツを痛烈に批判する『独裁者』(1940年)がアメリカではすでに封切られている。  二枚目の素顔をあえて白塗りで隠していたのが、チャップリンでもある。

ネット上で命名された“イマジナリー優三”

仲野太賀 そんな優三が戦病死と記された紙切れ1枚で片付けられていいはずがない。大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』(NHK総合、2019年)でも妻子を残して戦死する出陣学徒を演じている仲野太賀。  伊藤沙莉との共演で考えても、『拾われた男 LOST MAN FOUND』(NHK BS プレミアム、ディズニープラス、2022年)での共演がふたりの空気感を温めた。  するとどうだろう? 仲野太賀が画面上に呼び戻される。それも想像上の姿を借りて。家族を養うために司法省の事務官の職を得た寅子の気持ちが沈むとき、想像上の姿でふと彼女の隣に現れる。SNS上では、“イマジナリー優三”として話題だ。  第10週第48回、ベンチの近くでハーモニカを吹く男性がいる。その音色をきっかけとするかのように、カットが替わると優三がいる。映像表現で想像と現実が交差するとき、きっかけとなる演出が必要となる。  ハーモニカを使う演出は、例えば、能楽で笛を合図に幕が開いて亡霊が姿を現す世界観を踏襲しているとも言える。イマジナリーな存在ではあるが、優三が寅子に向ける眼差しは、やっぱり誰よりも温かい。 <文/加賀谷健>
加賀谷健
コラムニスト/アジア映画配給・宣伝プロデューサー/クラシック音楽監修 俳優の演技を独自視点で分析する“イケメン・サーチャー”として「イケメン研究」をテーマにコラムを多数執筆。 CMや映画のクラシック音楽監修、 ドラマ脚本のプロットライター他、2025年からアジア映画配給と宣伝プロデュース。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業 X:@1895cu
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