──そのような事情があるなか続けているのには、どんな理由があるのでしょうか。
廣瀬社長:技術的にも難しいですし、いろいろなコストがかかるので販売価格も決して安くはない遺人形ですが、それでも「作ってほしい」というご依頼者の気持ちを考えると、やっぱり大切な人がこの世を去ったということをまだまだ消化できていない方が多いのではないかと思います。だからビジネス的にはNGだけど、こういうサービスがあってもいいんじゃないかなというのが、続けているひとつの理由ですね。
それから、実際にお客様とやり取りをしている担当者のふたりが一番難しさを肌で実感しているはずなのですが、これまで「辞めたい」と申しだされたことはなくて。
三島:お問い合わせしてくださる方も、大切な人が亡くなってつらい思いをしてる中で、少しでも何かを心の支えにしたいというお客様が多いんです。ご依頼時やヒアリングの際にお電話をすると、つらい胸の内をお話をされる方もいらっしゃいます。
山岡:3Dデザイナーが多数いる弊社の特徴は、リアルな造形で仕上げられるクオリティですので、これまでフィギュア製作で培ってきた技術をもって、お客様の要望に可能な限りは対応したいというのが私の思いです。でき上がった遺人形を受け取ったお客様からは「立体物ならではの存在感があって、まるで故人が帰ってきたようだ」というお言葉もいただいています。
「料理人だからお玉を持たせたい」など依頼内容もさまざま
──技術力で、遺された方の心の支えになっているのが遺人形のサービスということですね。依頼者の思いに応えるべく、料金を追加すれば生前の故人をイメージさせる付属品も製作するなどオプションサービスなども行っていらっしゃるそうですが、これまで印象的だった注文などはありますか?
山岡:「亡くなった親御さんが大切にしていた愛犬のフィギュアも一緒に添えたい」や、「料理人の故人の遺人形にお玉を持たせたい」「釣り好きな夫だったので、大きい鯛のフィギュアを持たせてあげたい」などのご要望をいただいたことがあります。やはり、故人にまつわる思い出を想起させるものが多いですね。
それから、なかには等身大サイズの遺人形のご注文も、過去に2件ほど承りました。ただ、大きさも相当な上にコストも数百万円かかってしまうので、ご家族からは反対の声もあったそうです。
廣瀬社長:先ほども申しあげたとおり、ご依頼をいただいたことで始まったこの遺人形ですので、サービス自体もお客様の声に対応するかたちで拡充しています。弊社の3Dデザイン・造型の技術もこれからさらに進化していきますので、あくまでこちらが可能な範囲で皆さんの思いにお応えできればと思います。
──今後技術がもっと進歩すれば、さらに安価で遺人形を制作することや、自宅で遺人形を作ることも可能になるのでしょうか?
廣瀬社長:3Dプリンターの技術は日進月歩の勢いで進化しておりますので、恐らく今後技術がさらに進歩すればコストダウンも可能ではないでしょうか。とはいえ、遺人形サイズを出力できる大きな3Dフルカラープリンターは業務用がほとんど。なので、ご自宅で取り扱うことはまだまだ難しいでしょうね。
<取材・文/菅原史稀>