では、バカリズムが描くドラマは、他の作品と何が違うのか? 一番の魅力は、ハズシのうまさだろう。
今回の『ホットスポット』は宇宙人が題材だが、地球外生命体がカッコよくない。
韓国ドラマを福士蒼汰主演でリメイクした日本版『星から来たあなた』(Amazon Prime Video)や、中国ドラマ『恋した彼女は宇宙人』など近年も宇宙人を取り扱うドラマはあるが、どの作品も魅力的な主役やヒロインが宇宙人を演じる。
しかし、『ホットスポット』の宇宙人・高橋は容姿が普通のおじさん。しかも、今のところ披露するのは十円を曲げるなど、どうでも良い能力ばかりで全く魅力的でない。
また、『ブラッシュアップライフ』でも、タイムリープがストーリーの主軸だが、主人公は人生をやり直して大きなことを成し遂げない。
バカリズムは、これまでのドラマや映画のセオリーから微妙にハズシたキャラ設定やストーリーを作るのがうまい。結果として、聞いたことある設定なのに、見たことがないドラマや映画が誕生。今回の宇宙人のようになじみがあるのに、新しい価値観と世界観の作品となり視聴者を熱狂させるのだ。
ちなみに、バカリズムは過去にドラマをあまり観てこなかったとインタビューで発言し、お手本にしている脚本家がいないと思われる。また、『アメトーーク!』(テレビ朝日系)の「マンガ大好き芸人」に出演するほど熱狂的な漫画ファンとして知られ、自由な発想は漫画から得ていることが推測できる。
だからこそ、どの脚本家とも似ていない新感覚の作品を生み出し続けるのだろう。
そんなバカリズムだが、『ホットスポット』では得意の会話劇のおもしろさが堪能できる。
親近感の湧くあるあるネタと、センスの良い固有名詞が連発される小ネタ満載で、もっと会話劇を聞いていたくなる構成。役者たちの演技力の高さもあり、『ホットスポット』もとんでもない脚本に仕上がっていることを第1話だけで感じさせた。
会話劇がおもしろい脚本家としては坂元裕二や宮藤官九郎がいる。バカリズムもまた同じ系譜にいると考えられるが、お笑い芸人として一流の閃(ひらめ)きが加味されることをふまえると、坂元や宮藤を超える存在になる可能性を秘めていると感じる。
坂元や宮藤は、テンポの良い会話劇を展開しながら、壮大なゴールに向かって突き進んでいくダイナミズムを作り出すのがうまい。片や、バカリズムは芸人らしくおもしろさ優先で会話の掛け合いを作り上げ、何の意味も無いシーンも多用する。そういった、不可思議な展開を作れるのは、やはり芸人兼脚本家であるバカリズムだからこそ。
坂元や宮藤にはない魅力を持ちあわせ、とんでもない歴史に残る名作を作り出す可能性がある。