確かに新人俳優の売りとして、さまざまな作品歴が早いうちからあることは強みになる。でもそれだけだと、とりあえず動けるだけ動いて、たくさん現場経験があるということに過ぎない。この動ける才能がどう昇華されるのか。
ムロツヨシ主演でスカウトマンの世界を描く『ドラフトキング』(WOWOW、2023年)は、俳優として具体的な強みを得るきっかけになった。中山翔貴が演じたのは、ドラフト1位指名されるピッチャー。第2回、凛々しい眼差しで記者会見に臨む表情が印象的である。
鈴木亮平演じる主人公が弱小高校の野球部を育て上げる『下剋上球児』(TBS、2023年)にも出演している。第8話で5番ショートに選ばれて「はい」と誰よりもはきはきと答えるさわやか球児の顔があざやかだった。
俳優自身が実際に実力ある野球経験者だったことで、野球を題材にした作品でのキャスティング候補に挙がりやすいのだろう。オファーがどんどんくる。野球ドラマ作品を活路として特化していくことは戦略的でもある。
一方で野球選手のイメージが固定されれば、同じような役ばかりが回ってくる。橋本環奈主演朝ドラ『おむすび』(NHK総合)でも第12週第56回から社会人野球の大型新人選手・大河内勇樹を演じている。
この役がこれまでとひと味違うのは、カットのリズムに合わせた演技を的確にアウトプットしていること。練習中の大河内が、球を打つ場面。ちょうどそのタイミングごとにカット割りされた画面上、中山翔貴は丁寧にはつらつと演じ込んでいる。
野球ドラマではない『わたしの宝物』(フジテレビ、2024年)での会社員役もなかなかいい。デビューから現在まで登板中であり続けることに大きなポテンシャルを感じさせる俳優である。
<文/加賀谷健>