――50代で決意の再スタートは、世間一般でも考える方は少なくないと思うのですが、どう自分を奮い立たせ、どう仕事に向き合っているのですか?
黒沢:まず頑張ることをやめたんですよね。
――どういうことでしょうか?
黒沢:50歳手前の頃、自分の心と体が若いときと違って「頑張る」という言葉に合致がいかなくなるというか奮い立たなくなったんです。それを感じ出したんですよね。40代前半から心と体のバランスがズレてきつかったですね。
――9年間も。
黒沢:はい。それが50代に入ったあたりになったらラクになってきたんですよね。たぶんきっかけは、子育てが終わったタイミングだと思います。子育てに全力でエネルギーを使っていたんだなと。
――妻・母・いくつもの顔を持ちながら俳優業をやられていたけれども、その時間は大変なものだったわけですね。
黒沢:子育ては、手を抜かずに真剣に向き合いたいと思っていました。わたし自身が俳優の仕事よりも、子育てのことをしっかり悔いなくやりたいっていう気持ちが強かったんです。「母親でいなきゃ」って思いがあって気を張っていましたし、頑張らねばという想いがありましたから、責任を持って妻も母も、嫁として全力でやろうと。
――その経験は、今どう自分の中で受け止めているのですか?
黒沢:すべてのエネルギーを子育てに向けてきたので、子育てが終わって良い意味で開き直って「もういいでしょう」ということに気づいたんです。今日からは明日からは「もう頑張る必要はないんだよ」って。そういう経験が自分の今の糧になっていると思うんです。
――そのマインドのなか今回のこの『敵』に参加され、一番良かったと思うことは何かありますか?
黒沢:この作品に出て一番良かったこと……自立。精神的自立ができたってことでしょうか。夫からの。(笑)
――結婚20周年を目前にしてですか!?
黒沢:そうですね(笑)。夫からの精神的自立ですかね(笑)
――依存していたということでしょうか?
黒沢:今振り返ると、そうですね。夫のことを尊敬してるんです。夫は世の中を知っている。わたし10代からこの世界にいるので、世間のいろいろなことからちょっとずれていると感じることがあるんですね。そこを会話することで修正してくれるのが夫なんです。子どもたちもそうなんです。
だから、もちろん変わらず夫を尊敬しているのですが、尊敬していることと依存するってことが、どうもわたしの中でごっちゃになっていたんだなっていうことが最近わかったんです。
――そのことに『敵』の撮影を経て気づかれたのでしょうか?
黒沢:家族に宣言したんです。この『敵』、そして信子役をしっかり演じたいから、一人でホテル暮らしをさせてと。撮影場所が大宮の方だったのですが、その近くでホテル住まいを許してくださいと、息子たち、夫たちに頼んだんです。そしたらみんなが「いいよ。そんなにすべてを賭けているのであれば、そうしてくれて構わないよ」と快く言ってくれて。
夫を含めた家という大きな存在から離れる行動を自らしたということで自立した、という意味なのですが、そのおかげで撮影が終わったときに解放されて、一本立ちできている自分をイメージできたんです。