座敷場面はこう描かれる。カメラはまず室内に置かれる。画面上手に後ろ姿の検校(その前の場面でも同じような後ろ姿のワンショットがある)。画面奥の障子が開く。しめやかな佇まいで斜め上方を向いている検校の正面を初めて捉えただけでわかる。ただならぬ雰囲気。
瀬川を筆頭に花魁たちが入室。カメラの前を横切る花魁と花魁の間、検校が間欠的に顔を見せる。周到に準備された検校の初登場として力が入る完璧な演出である。緊張は持続する。
隣に座った瀬川が検校をまじまじと見つめると、しなやかな俊敏さで横を向く検校が見つめ返す。瀬川はさっと視線を外す。このアクションとリアクションを空気と音で感じる検校は「すまぬ、驚かすつもりはなかったのだが」と第一声。
座にいる者がどうしてわかったのかと聞くと、検校は「息を呑んだ音がした」と説明する。この座敷場面前で視聴者は唾を呑み込み、座敷では花魁が息を呑む。本作の市原隼人は他を圧倒する存在感である。

視聴者と登場人物がはからずも緊張を共有してしまうほど、ゾクッとする。座敷場面での第一声から検校が発するすべての言葉の語尾によーく耳をすまして、さらにゾクッとする。台詞を操る市原は、意図的に語尾の母音をかすれた残響音にしている。
ひたすら不気味なこの残響音が、市原の特徴的台詞回しとしてはっきり確立されたのは『正直不動産』(NHK総合、2022年)くらいからだったか。彼が発する台詞が残響するとき、彼の目は一際怪しげに光る。
その黒目がちな瞳は、魔物的な魅力がある。身請けした瀬以(身請け後の瀬川の名)がどうにも自分に心を開いて接しないのは重三郎に気持ちを寄せているからだと瀬以を叱責する場面が、第13回にある。瀬以を閉じ込める書庫に差し込む日差し、書庫の入り口の暗がりという陰と陽の場所で、黒目を光らせる市原が、妖気のような雰囲気を漂わせる。
陰陽師の世界を描いた『陰陽師Ⅱ』(2003年)で市原は、光と闇の間でもがきながら、その身が魔物に変化してしまう純朴な少年を演じたことを思い出した。姿形は変わっても黒目がちな瞳だけは変わらない。
14歳の市原が、少年期の不安定さを瞳の力に宿した初主演映画『リリイ・シュシュのすべて』(2001年)を劇場のスクリーンで観た強烈な体験が忘れられない人も多いかもしれない。38歳で演じる鳥山検校役を見て、子役時代までさかのぼる魔物的魅力がある俳優だなと思った。
<文/加賀谷健>
加賀谷健
イケメン研究家 / (株)KKミュージック取締役
“イケメン研究家”として大学時代からイケメン俳優に関するコラムを多くの媒体で執筆。アーティストマネジメント、ダイナマイトボートレース等のCM作品やコンサートでのクラシック音楽監修、大手ディベロッパーの映像キャスティング・演出、アジア映画宣伝プロデュースを手掛ける。他に、LDHアーティストのオフィシャルレポート担当や特典映像の聞き手など。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。
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