NHK大河『べらぼう』38歳俳優の“魔物的な存在感”。視聴者をゾクッとさせる魅力のワケとは
ただならぬ雰囲気で描く初登場場面
子役時代までさかのぼる魔物的魅力
視聴者と登場人物がはからずも緊張を共有してしまうほど、ゾクッとする。座敷場面での第一声から検校が発するすべての言葉の語尾によーく耳をすまして、さらにゾクッとする。台詞を操る市原は、意図的に語尾の母音をかすれた残響音にしている。
ひたすら不気味なこの残響音が、市原の特徴的台詞回しとしてはっきり確立されたのは『正直不動産』(NHK総合、2022年)くらいからだったか。彼が発する台詞が残響するとき、彼の目は一際怪しげに光る。
その黒目がちな瞳は、魔物的な魅力がある。身請けした瀬以(身請け後の瀬川の名)がどうにも自分に心を開いて接しないのは重三郎に気持ちを寄せているからだと瀬以を叱責する場面が、第13回にある。瀬以を閉じ込める書庫に差し込む日差し、書庫の入り口の暗がりという陰と陽の場所で、黒目を光らせる市原が、妖気のような雰囲気を漂わせる。
陰陽師の世界を描いた『陰陽師Ⅱ』(2003年)で市原は、光と闇の間でもがきながら、その身が魔物に変化してしまう純朴な少年を演じたことを思い出した。姿形は変わっても黒目がちな瞳だけは変わらない。
14歳の市原が、少年期の不安定さを瞳の力に宿した初主演映画『リリイ・シュシュのすべて』(2001年)を劇場のスクリーンで観た強烈な体験が忘れられない人も多いかもしれない。38歳で演じる鳥山検校役を見て、子役時代までさかのぼる魔物的魅力がある俳優だなと思った。
<文/加賀谷健> 1
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