『虎に翼』や『なつぞら』でも。俳優として活躍する声優たち
朝ドラに俳優として出演する“朝ドラ声優”は『あんぱん』に限らず、他の作品でもちょくちょく見かける。昨年の『虎に翼』では、主人公・猪爪寅子(伊藤沙莉)の親友・花江(森田望智)のお手伝いとして働く稲役として、『ワンピース』(フジテレビ系)の
ルフィ役など、多くの人の記憶に残るキャラを担当してきた田中真弓が登場。

『連続テレビ小説 虎に翼 Part1 (1)』(NHK出版)
稲は戦時中に親戚が住む新潟に帰郷して、一旦退場したかに思われたが、その後寅子が新潟地方・家庭裁判所三条支部に赴任した際に再登場して視聴者を驚かせた。
また、『虎に翼』では寅子の父親・直言(岡部たかし)が社長を務める会社「登戸火工」の従業員・重田として、『名探偵コナン』(読売テレビ・日本テレビ系)の
アガサ博士役でお馴染みの緒方賢一も出演。重田の声があまりにアガサ博士だったため、一瞬で重田が緒方であることに気付き、その時の興奮に今でも鮮明に覚えている。
『虎に翼』以外にも、『らんまん』(2023年)の宮野真守、小野大輔、『なつぞら』(2019年)の沢城みゆき、高木渉など、朝ドラに声優が出演するケースは枚挙にいとまがない。
そもそも、最近は声優が俳優として実写ドラマや映画に出演するケースが増えており、朝ドラに限った話ではない。アニメ業界と映像業界の垣根が薄れつつあり、業界全体の流れとして声優は「声のプロ」以上の多才なパフォーマーとしても注目されている。
それでもやはり、
「朝ドラに」声優が出演することの効用は大きい。というのも、朝ドラは一般的なドラマより、シリアスパートが多い傾向がある。大切な人との別れなど視聴者のメンタルをえぐる展開も珍しくなく、視聴するのがしんどくなる瞬間にも直面しやすい。そこで声優が大きな役割を果たすのだ。

声優は当然声が特徴的であり、“普通の役者”とは声のトーンが微妙に違う。だからこそ、
声優がセリフを発することで、良い意味で“異物感”を与え、作中の空気を緩和しているように感じる。視聴者に親しみや懐かしさによる安堵感を生み出し、それが感情のバランスを取る役割を果たしているとも言えるだろう。
対照的なのが、TBSの日曜劇場に登場する歌舞伎界や狂言界のトップランナーたちだ。『半沢直樹』シリーズの大和田暁役の香川照之、『アンチヒーロー』の伊達原泰輔役の野村萬斎をはじめ、彼らが“ボスキャラ”や“敵役”を担うケースが目立つ。ところどころ伝統芸能特有のニュアンスが入ったセリフ回しや表情が入ることで、ピンと張りつめた緊張感を作品にまとわせている。