「弱ってる“オジ”保護するの好きなんですよね」というセリフはなかなかに秀逸だ。そんなパンチラインを得意げな表情で言っていたのだから、余計に脳内にこびりつく。ただ、より深く記憶に残った要因として、香奈という人間の“惨(みじ)めさ”を象徴しているように感じたことが大きい。
このセリフから察するに、
香奈は結局のところ“弱ってるオジ”からしか好かれてこなかったように思う。弱っている人は、ちょっと優しくするだけでもコロッと落ちやすい。加えて、オジは恋愛市場においてはあまり好かれる属性ではなく、
弱っているオジから好かれることは決してハードルが高いことではない。
そんな弱っているオジの“保護者”を自称する香奈は、「自分が好きな人」より「楽に自分のほうを向かせられる人」としか仲を深められず、“手ごろな関係性”しか築けてこなかったのではないか。
また、不倫相手は言ってしまえば“パートナーの代替え”だ。
恋人やパートナーほど真剣に向き合う必要がなく、不倫する側からすれば気兼ねなく接することができる。
香奈がオジとどれだけ深い不倫関係になっていたのかは不明だ。しかし、仮に弱っているオジ“たち”と不倫関係になっていたのであれば、「
香奈はこれまで簡単に手に入る愛情しか得てこなかったのでは?」と考えて切なくなる。
香奈自身も誰かの代わりとしてしか愛されていないことに惨めさを覚えており、麻矢という光博から真っすぐ愛されていた対象を前にしたために、その負の感情が抑えきれずに強気な態度を見せたのかもしれない。
本作一番の黒幕である香奈は、誰かを不幸にすることに快感を覚えるようなサイコパス的なキャラではなく、
弱く、惨めで、人間らしいキャラだった。なにより、そんな香奈の輪郭を想像したくなる演技を披露した松浦の表現力は見事だ。
<文/望月悠木>