さらに八木は嵩に詩の才能を見いだし、詩集『愛する歌』を出版する。嵩のために出版部まで設立するのだが、この詩集は九州コットンセンターにとっても初の出版物だった。柳井嵩役のモデルである『アンパンマン』の作者・やなせたかしも同名詩集『愛する歌』を出版している。
実際の出版元が「山梨シルクセンター」。九州コットンセンターと社名が似ている。同社は、ハローキティなどの看板キャラクターで有名なサンリオの前身となった会社である。サンリオのホームページに掲載されている「サンリオのあゆみ」という年表を見ると、創業年代の1966年に「詩集『愛する歌』発行」と記されている。
このことからサンリオ創業者である辻信太郎が、八木信之介役のモデルの一人だと考えられている。蘭子の文章にダメ出しをして助言したり、嵩の才能を見抜く八木がプロデュース力に長けた人物として描かれている一方で、史実とは関連しない豊かな創作要素もある。

出会いの会話からして阿吽の呼吸だった八木と蘭子は明らかに恋仲になりつつある。果たして二人は結ばれるのかどうか。クライマックスに向かう本作後半部を見る大きな楽しみとして、この愛の創作エピソードは魅力的だ。
八木にとって蘭子は、本音をぶつけてくる相手であり、蘭子が書く宣伝文も会社の発展を手伝ってくれる。でもお互いに心を引かれていることを自認すると、何だかぎこちない関係性になる。第23週第112回、八木が蘭子のアパートを訪ねてくる場面。
八木が部屋を出ると外は雨。蘭子が傘を持ってくる。階段下、二人は同じ傘に入り、見つめ合う。ぎこちないが、互いの眼差しは熱い。この階段はのぶの妹・メイコ(原菜乃華)が夫になる辛島健太郎(高橋文哉)と愛を確かめ合った場所でもある。
見つめ合う八木と蘭子を写すカメラが俯瞰の位置に置かれ、二人が入る赤い傘を真上から捉える。その時間、約8秒もの持続。愛を育み、温めるこの名場面。夢のある創作場面だなと思った。
<文/加賀谷健>
加賀谷健
イケメン研究家 / (株)KKミュージック取締役
“イケメン研究家”として大学時代からイケメン俳優に関するコラムを多くの媒体で執筆。アーティストマネジメント、ダイナマイトボートレース等のCM作品やコンサートでのクラシック音楽監修、大手ディベロッパーの映像キャスティング・演出、アジア映画宣伝プロデュースを手掛ける。他に、LDHアーティストのオフィシャルレポート担当や特典映像の聞き手など。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。
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