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薬物・殺人犯・詐欺・銃撃…『キングオブコント』に“バイオレンス”なネタが溢れた理由。攻める芸人、引かない観客——いまの“笑いのバランス”とは

「守り」から「攻め」へ——芸人の選択

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や団 画像:株式会社U-NEXT プレスリリースより(PRTIMES)

そこには、全国放送されるお笑い賞レースがインパクト勝負な一面もあるからです。日常を切り取った会話ネタやシンプルな設定よりも、派手なセットや衣装を使った演出ができるコントのほうが、審査員や視聴者に強い印象を与えやすく、高得点につながる傾向があります。 なかでも、「銃で撃つ」「刀や包丁で刺す」「暴力や暴言を用いる」といったバイオレンスネタは、もっともインパクトを残しやすいとして、多くのコンビが決勝の舞台で採用したがるのではないでしょうか。 かつては、こうしたバイオレンスネタに対して、コントの設定であるにもかかわらず、会場の女性客から悲鳴が上がったり、引かれたりすることも少なくありませんでした。実際、過去のネタ番組で「こんな人が実際にいたら怖いと思いました」「ちょっと引きました」といった女性タレントがネタの感想を言っている姿を見たことも多いでしょう。

変わる客層とネタ感覚、芸人たちの現在地

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ニッポンの社長 画像:吉本興業株式会社 プレスリリースより(PRTIMES)

こうした状況から、あえて観客の反応を気にして、悲鳴が上がらないような守りに入ったネタを選ぶコンビも、お笑い賞レースでは少なくありませんでした。 一方で、劇場で普段ウケているような攻めたネタを避け、テレビ向けの“無難なネタ”を披露したからといって、高得点につながるわけではないことも、過去の大会を見れば明らかです。実際、自分たちの得意とするネタをそのまま披露し、賞レースで優勝をつかんだコンビやトリオは増えています。 記憶に新しいのは、2025年7月に放送された『ダブルインパクト~漫才&コント 二刀流No.1決定戦~』(日本テレビ系)で、バイオレンスネタを得意とするニッポンの社長が、自分たちらしいスタイルを貫いて優勝したケースです。 このような流れもあって、会場の女性客や視聴者の意識にも変化が見られると言えるでしょう。実際、今年のKOCでは、銃で撃たれたり、刀で刺されたりする場面においても、会場全体の笑いが冷めるような悲鳴はほとんど聞こえませんでした。それだけ観客が普段から芸人のネタを見慣れていたり、シュールやバイオレンスを含む演出に対する耐性を持っていたりするのかもしれません。 また、近年はコンプライアンス意識の高まりから、罰ゲームやハラスメント、人を傷つけるような笑いがテレビから姿を消しています。芸人たちも、普段のバラエティ番組ではやりたくてもできない分、ネタの中でバイオレンスを笑いに昇華させているとも考えられます。 さらに、漫才が“日常会話の延長”として見られるのに対し、コントはあくまでも“フィクションの世界”。たとえ人を殺すような演出や暴言があったとしても、「これはあくまで役であって現実ではない」という言い訳が成立しやすいという側面もあります。 今年のKOCのネタからは、そうした芸人たちのコンプライアンス意識への反動も透けて見えました。 <文/エタノール純子>
エタノール純子
編集プロダクション勤務を経てフリーライターに。エンタメ、女性にまつわる問題、育児などをテーマに、 各Webサイトで執筆中
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