ファッション用語としてのモードとは、「最先端の流行」を意味する。他にも、流儀や表現方法などの意味があり、それらをひっくるめて「スタイル」と言い換えることができる。ラウールというモードを作ることで、それが毅然としたスタイルになる。では、そのスタイルとは?
モードを作るのは至難の技でもある。コム・デ・ギャルソンのデザイナーである川久保玲でさえ、それまでのモードの常識を覆した1980年代前半は、批判されることも多かった。
モードを作ることはそれまでの世の中にはなかった価値観を生み出すこと。たとえ生み出せてもそれがすんなり世の中から理解され、受け入れられるとは限らない。時間はかかるが、でもだから不屈の挑戦を続ける。
ランウェイモデルを目指すラウールもまた苦戦を強いられる。何とかパリのモデル事務所に所属が決まり、何とかキャスティングまでくぐり抜ける。本作のカメラはラウールにとって初のブランドショー出演になったMaison MIHARA YASUHIROのキャスティングからフィッティングまでの流れを路地を挟んだ位置から静かに見つめた。
ショーを終えたラウールに改めてカメラを向ける車内インタビュー映像では、緊張と興奮を飲み込んだ先で噛み締める、可憐で華麗な表情を垣間見せ、そこに独自のスタイルが浮かんでいたように思う。

画像:TVerより
MIHARA YASUHIRO春夏のショーに出演するまでの期間、大きな挫折を味わったラウールがセンシティブになっている様子をカメラは克明に記録している。その期間を乗り越えた車内インタビューで彼が「あぁ、これ、まだやめれねぇな」とグッと込み上げるものを抑えていた。一瞬、泣いているのかと思った。
可憐で華麗なエモーションは、木村文乃との共演ドラマ『愛の、がっこう。』(フジテレビ系、2025年)で演じたホスト・カヲル役の多感な表情をどこか思わせた。実際、ラウールはこの後、(モデルとして)ミラノのファッションウィークへの挑戦と『愛の、がっこう。』の撮影を並行する。
『愛の、がっこう。』脚本家・井上由美子は、女子SPA!掲載インタビューでMIHARA YASUHIROのショーを動画で偶然見ていたと語り、銀テープが口元に付着するというハプニングをもろともせずランウェイを歩いた才能が「魔王のお散歩みたい」で、「別人になることを楽しめる方」と評した。
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『愛の、がっこう。』最終回放送後の今、改めてこのドキュメンタリー映像を見たとき、ランウェイモデルとしても俳優としてもすべての活動がラウールの中で連動し、流動していたことがわかる。
そうした流動感こそ、ラウールというモードであり、固有のスタイルである気がする。
<文/加賀谷健>
加賀谷健
コラムニスト/アジア映画配給・宣伝プロデューサー/クラシック音楽監修
俳優の演技を独自視点で分析する“イケメン・サーチャー”として「イケメン研究」をテーマにコラムを多数執筆。 CMや映画のクラシック音楽監修、 ドラマ脚本のプロットライター他、2025年からアジア映画配給と宣伝プロデュース。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業 X:
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