
画像:阪急阪神ホールディングス株式会社 プレスリリースより(PRTIMES)
まず、<他力本願な思考はポカホンタス>といった攻撃的なフレーズの登場が、今回限りのものではないことを指摘しておかなければなりません。Number_iは他のアイドルグループとは一線を画し、従来から先鋭的なスタイルを追求していたのです。
それは昨年発表された「JELLY」という曲にはその特徴がよく表れています。この楽曲の歌詞を手掛けたpecori氏による描写は、衝撃的ですらあります。
<I love you を込めたjelly どんな味する?>
<俺の思いが溶けていったjellyが蒸発して 君の鼻にどうにか入ってくれたら>
聴く人によって様々な解釈が成立しそうな際どいフレーズです。成就しなかった恋の無念を、濃厚な身体性を際立たせて、詩的に描いています。これをあえて過激なサウンドではなく、耳に心地よいメロウなサウンドで歌っていること自体、単なるアイドルのポップスではないことの証明になっています。
そのような計算され尽くした引き算のインパクトが、Number_iというグループの特徴なのですね。その中で、彼らは攻め続けているのです。

画像:株式会社J-WAVE プレスリリースより(PRTIMES)
今回の<他力本願な思考はポカホンタス>というフレーズも、そのアーティスト性や作風から生まれた失敗だったと言えるでしょう。すなわち、ミセスの「コロンブス」のような無邪気さや無節操さとは対極に位置し、ギリギリの表現を狙ったチャレンジ精神が原因でした。
しかし、今回は少しだけ読みが甘く、一線を踏み越えてしまった、ということです。その点を踏まえると、TOBEが「表現のあり方について慎重に検討を重ねてまいります」とコメントを発表したことは、極めて誠実な対応といえます。
それと同時に、Number_iは今後もどこまで攻め続けるのかという問題を浮き彫りにしているとも感じました。アーティスト性を追求することは、常にギリギリの言語表現を生み出すこととイコールでなければならないのか?
「他力本願」と「ポカホンタス」というフレーズを拙速に組み合わせた背景には、Number_iのブランディングに対する焦りが垣間見える部分もあります。
音楽は必ずしも衝撃的である必要はない。今回の一件は、そのことを教訓として残してくれたのかもしれません。
<文/石黒隆之>
石黒隆之
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。いつかストリートピアノで「お富さん」(春日八郎)を弾きたい。Twitter:
@TakayukiIshigu4