スー:私は一人っ子のせいか、何時間もずっと妄想していられるタチなんですけど、そういうことも含めてもっと自分の脳で遊べたら楽しいだろうなと思うんですが、なかなかうまくいかないですね。
角:その妄想がイメージングにつながるんじゃないかな?
スー:自分で自由に妄想するのはすごく好きなんですけど、「ピラミッドを想像してください」と言われると、もっと詳しい発注書をください!ってなっちゃう。人から発注されるのが苦手みたい(笑)。
角:私も一人っ子なのでわかります(笑)。でもそもそも、人はみんな自分の主観で生きているので、瞑想中も自分の好きなようにやっちゃえばいいんですよ。
スー:おっしゃるとおりですね。仕事のせいなのかなあ。そもそも、他者は自分と違う脳みそをもっているので、自分と同じものを見ている確証すら持てないわけです。にもかかわらず、どうにかして伝えたいという欲望が私にはある。文章を書くにしても、ラジオでしゃべるにしても、誰かと共有したいんですね。そうすると、漠とした主観だけでは足りないと思っちゃう。
具体的に伝えるために、やっぱり細かく探りたくなっちゃうわけですよ。伝える技術を磨いた結果、そこが逆にコンプレックスになってきていますね。昔は理知的であることを目指していたし、俯瞰で物を見ることを尊いことだと思っていたけど、結果的に主観が弱くなったというか、これではバランスが悪いなと思っています。
角:主観が弱くなっているとはどういうことですか?
スー:必ず他者の存在を意識しているということです。誰かから「ピラミッドをイメージしてください」と言われると、その人が考えるピラミッドと自分のピラミッドに乖離があってはならないと思ってしまう。以前の私の主観には、もう少し自由度があったはずなんだけど……という感じがするんです。
それは物書きという職業であるということもあるけれど、道を外したくないというか、角さんが言うところの「カッコ悪くなりたくない」というのと同じで、酩酊したいんだけど、したくないみたいな。「なに言ってるのかわからない」と言われるのが怖いのかな。

ジェーン・スーさん
角:あ~……でもそういう意味で言うと、私も「カッコ悪い」と言っていることに安心感を持っていたりもしますね。
スー:逆にカッコ悪い人が羨ましくもありますよね。
角:まさに。実際には何かが見えているのかもしれないし、そこにハマれているのも楽しそうだしっていうのもありますね。
スー:羨ましくもあり、憎らしくもありっていうところだと思いますけどね。
角:いや、でも、私もスーさんの著書『介護未満の父に起きたこと』を読ませていただいたのですが、これは純粋に「ヴィッパーサナー瞑想」に近いなと思いました。
スー:な、なんですって? ヴィ? ヴィ?
角:ヴィッパーサナー瞑想です(笑)。これは自分に起きているが辛いこととか悲しいことだったりしても、俯瞰でそれを観察することによって、ずっと抱いていた怒りが消えたりまた戻ってきたりということを繰り返して、どんどん緩やかな波になっていくという瞑想法です。すごくお辛い時期もあったと思うんですけど、書くことによって救われたことも多かったと思いますし、読んでいる私にもそれが伝わって、正直最後の10ページくらい結構泣いちゃいましたね。
スー:そんな感想初めてです。
角:私はまだ親の介護を経験していませんが、介護するときのイメージが湧いてきて……。
スー:出た!イメージ!イメージを鍛えているだけある!
角:おそらくすごく冷たくあしらっちゃうんだろうなとか、スーさんんも自分の人生を台無しにするようなスケジュールで倒れる父親に怒りを感じたとか、自分の未来に起きることだと思うんですけど、一緒に体験できたような感じがして準備運動になりました。
スー:ありがとうございます。
スー:たまに摂取はしたくはなるんですよ。高額な占いとか、霊視できる人との会話とか。多分日常生活で自分が見えてるもの、物差しで測れるもの以外のものとの接点が欲しいっていうね。それはエンタメのレベルですけどね。
角:どういう時にそういう気持ちになるんですか?
スー:私の場合はパターン的に、しんどい時じゃなくて、暇な時とかに来るんですよね。しんどい時に来ると多分飲み込まれちゃうんだと思うんですけど、暇っていうのは別に時間があるとかじゃなくて脳が暇、みたいな時ですね。仕事はいっぱいあるし、やることもあるけど、考えることがあんまりないなみたいな時にそういうのを挟むと楽しい。角さんは、スピリチュアルと今どういう感じで付き合われてるんですか?
角:私の場合は仕事にもなってしまってるんで……ただ、いまいちばん興味があるのはまさにスーさんがおっしゃられたように、能力者の見極めみたいなことを今やりたい。来年か再来年ぐらいにそれを本にまとめようと思ってるんですけど、だから今は月に3人ぐらいには見てもらってるんですよ。
【ジェーン・スー】
コラムニスト、ラジオパーソナリティ。TBSラジオ『ジェーン・スー 生活は踊る』を始めTBSポッドキャスト『ジェーン・スーと堀井美香の「OVER THE SUN」』、『となりの雑談』のパーソナリティーも務める。『へこたれてなんかいられない』(中央公論新社)、『介護未満の父に起きたこと』(新潮社)、『ねえ、ろうそく多すぎて誕生日ケーキ燃えてるんだけど』(光文社)など著書多数
【角由紀子】
上智大学中退後、白夜書房、BABジャパンでの編集経験を経て、株式会社サイゾーにて不思議系ウェブサイト「TOCANA」を開設。8年間編集長を務める。ウェブ編集の傍ら、映画の配給、企画、プロデュースなども兼任。テレビ番組「ネットで噂のヤバイニュース超真相」や「ケンドーコバヤシの絶対見ない方がいいテレビ」を企画・出演し、Amazonプライムやネットフリックスで配信。映画『三茶のポルターガイスト』『新・三茶のポルターガイスト』の制作・出演も
<文・取材/和場まさみ 撮影/スギゾー ヘアメイク/藤原リカ(ジェーン・スー)>