いきなりではあるが、筆者は応援上映というシステムには懐疑的だ。ホラー映画などは別として、基本的には映画館では静かに鑑賞したい。「静かに観るからこそ緊張感が生まれ、その緊張感が没入感につながる」と考えているからだ。
ただ、鈴木と杉木の絡み合うシーンが映し出されるたびに、「おいおいおい」「あーあーあー」と唸ってしまった。色気たっぷりなシーンを、1人で家で声を詰まらせながら観るのではなく、誰かと一緒にこの“濃密さ”をシェアして、悶えながら映画館で鑑賞したい。それも1人、2人ではなく、大勢の人たちとともに、あまりの妖艶さにため息をつきたい。そして、隣の人たちと「今の、けしからんですよね?」と呆れたい。そんな気持ちになった。

Netflix映画『10DANCE』
1人で喰らうには濃密すぎて、チェイサーを飲むかのように、誰かと共有して発散しなければ胸焼けや悪酔いをしてしまいそうな内容だったため、「応援上映で観たい」という発想が浮かんだのかもしれない。
好意的に語ってきたが、正直首を傾げたくなる箇所もあった。ダンスシーンは圧巻ではあるが、ストーリーに置いてけぼりを食らう瞬間が少なくない。そもそも、原作の雰囲気は比較的明るく、コメディタッチで会話やダンス指導が度々描かれている。また、各登場人物の心情をセリフや表情で示しており、鈴木と杉木の距離感を見失うことはない。

Netflix映画『10DANCE』
ただ、画面が終始暗く、淡々とストーリーが進むため、2人の感情の起伏は読み取りにくく、頻繁に「今はどういう関係性なの?」と疑問符が浮かんだ。もちろん、原作のある作品を約2時間にまとめる必要があり、原作で描かれていたシーンをカットしたり、駆け足になったりする部分が出てしまうのは無理もない。
なにより、本作のメインディッシュとも言えるダンスシーン、それも10種類あるダンスに時間を割きたかったのだろう。また、「言葉ではなくダンスを通して、2人はいろいろな感情を通わせていた」とも言え、観る側がダンスシーンからそのあたりを“補填”していく必要があったのかもしれない。
それでも、原作未読の視聴者からすれば、説明不足を感じさせる場面が目立つ。原作を読み、映画を観ることで登場人物の心の揺れ動きは理解できるが、“原作履修済み”を前提とした作りにも感じられた。
とはいえ、『10DANCE』は熱く、甘美で上質な映画であることは変わりない。海外からも好意的な声が多く寄せられており、本作がどのように評価されていくのかも楽しみにしたい。
<文/望月悠木>
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フリーライター。社会問題やエンタメ、グルメなど幅広い記事の執筆を手がける。今、知るべき情報を多くの人に届けるため、日々活動を続けている。X(旧Twitter):
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