照明やスモークなどでリアルな空気感を追求していることがわかった。とはいえ、喋り方は現代的で、リアルとは真逆な印象を受ける。登場人物が発する言葉については、「リアルとリアリティは別物だと思っています」と回答する。
「リアルを求める人は多いと思いますが、当時のリアルをお伝えするのは、歴史に関する教養番組の役割です。そもそも、当時のことは文献に残っていることから推測するしかなく、当時の写真もほとんど残っておらず、リアルな言葉や所作は正確にはわかりません。

実際に再現できたとしても、視聴者に『何を見せられているのか?』とポカンとされ、感情移入してもらえない可能性もあります。ですので、『当時の人たちがどのように生きていたのか?』ということを今生きている人たちに伝えるために、リアルではなくリアリティを追究することが必要だと考えました」
ただ、リアルを度外視すると「こんなのリアルじゃない!」と批判が寄せられそうではあるが、「リアリティの感じ方も人それぞれ違うため、一定数のお叱りを受けることはわかっています」と腹をくくっていたようで、「『極力多くの人にリアリティを感じてもらうために、どう落とし込むか?』ということは、本当に大切にしました」と語った。
リアリティを表現するため、言葉遣いや所作はどのようなことを意識したのか。
橋爪氏は「実は今回、時代劇っぽい言い回しはしていません。時代劇で描かれるセリフは、基本的に当時使用されていた言葉ではなく、時代劇のために作られた言葉なんです。時代劇は歌舞伎などと同じで完成された芸術だと思っていますが、それゆえに否応なく“劇”として見られ、壁を作ってしまいかねない。そのため、時代劇を目指さないようにしようと考えました」と話す。
「時代劇に登場する若い女性は、所作がキビキビしていたり、母親にも常に敬語で話したりするなど、ビシっとした描かれ方をしますが、実際はそうではなかったのではないかと思います。トキや友人のサワ(円井わん)は20歳そこそこですが、当時を生きていた20歳の女性にも、きっと青春はあったし、年相応の悩みもあったはずです。
なので、あえて現代風の言葉や動きを意識して作っています。ただ、リアルとのバランスも大切なので、セットは徹底的にリアルにこだわり、バランスをとったりもしていますね」
時代劇っぽさがなかったからこそ、トキたちを“今の私たちと変わらない、確かにそこに生きていた人たち”と、身近な存在として感じられたのかもしれない。加えて、トキをはじめ、なみ(さとうほなみ)や雨清水三之丞(板垣李光人)といった、時代に振り回された登場人物の姿を見て、自分事のように胸が揺さぶられた背景には、リアルではなくリアリティを追い求めたことの結果なのだろう。
<取材・文/望月悠木>
望月悠木
フリーライター。社会問題やエンタメ、グルメなど幅広い記事の執筆を手がける。今、知るべき情報を多くの人に届けるため、日々活動を続けている。X(旧Twitter):
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