トキには優しいが自分の息子である三之丞には関心を示さない、トキの実父・傳(堤真一)、優しい父親ではあるが多額の借金をこさえた司之介(岡部たかし)など、“100%良い人”は出てこないことも面白さにつながっているように思う。

登場人物の描き方については「何でも完璧にできてしまう、そんな神様みたいなキャラクターをドラマでは作りがちです。しかし、実際は誰もが良いところと悪いところを持っています。むしろ悪いところが多いことは往々にしてあり、『そういう人たちの物語になれば』と考えています」という。
続けて、役者への感謝も口にする。
「森山銭太郎役の前原瑞樹さんも、借金取りの二代目ではありますが、どんな嫌なセリフを言ったとしても嫌な風に聞こえない。レフカダ・ヘブン役のトミー・バストウさんも本当に良い人で、ヘブンは不満を漏らすシーンは多いですが、嫌な感じはしません。役者の力で、悪いところを見せても嫌悪感につながっていないのかなと感じています」
まだまだ本作の特徴はある。トキの顔がアップで映し出され、言葉を発さずに表情のみで感情を示すシーンは多い。加えて、ヘブンが英語で喋り、字幕のみで和訳が流れるシーンも多く見られる。
朝ドラは仕事や学校の支度をしている人が“ながら見”、もしくは“耳で視聴”するケースが珍しくない。そのため、ストーリーがわからずに視聴者を遠ざけるリスクもあるが、なぜしっかりと視聴していないと理解できない見せ方をしているのか。

「朝ドラはストーリーがわからなくても解説してくれる語り手がいて、“誰でも楽しめるドラマ”という位置づけだと考えています。ただ、時代が変わり、配信で観てくれる人や録画して夜に観る人も増え、視聴形式は多様化しました。
それに伴い、『心情をすべてセリフや語りであえて説明しなくても良いのでは?』と考え、従来の朝ドラの見られ方に囚われずに『ちゃんとドラマとして見せる』ということを徹底しました。とりわけ、本作は『人の心は一辺倒ではない』ということをテーマとしていたので、表情のアップや英語での会話などを多く採用することにしました」
また、阿佐ヶ谷姉妹の2人が声を担当している蛇と蛙はナレーション的な立ち位置に思えるが、「蛇と蛙はナレーションや語りとはして登場させてはおらず、あくまで登場人物という位置づけです」と語った。