ある意味、“ラシャメン騒動”は予想通りではあるが、思っていたよりもその内容はしんどい。「報道をきっかけに、不特定多数の人間に攻撃される」という展開は、ドラマや映画ではよく見られる光景だ。見慣れているはずではあるが、トキとヘブンがゆっくりと愛を育んでいく姿を3~4か月も見ていた側からすると、2人の関係が誤解され、それによって悪意を向けられる様子は見ていて胸が痛んだ。

『連続テレビ小説 ばけばけ Part2(1) 』(NHK出版)
また、朝ドラのヒロインは自身の勇気や行動力でもって困難を切り開くケースが目立つが、トキはそういったヒロイン像とは異なる。ヒロインや仲間の誰かが市民の誤解を解くわけではなく、ヘブン専属の車夫・永見剣造(大西信満)が言った通り“人の噂も七十五日”で解決する展開は現実的だ。騒動が沈静化した要因が、“別のスキャンダルの発生”だったというリアリティも、精神的な辛さを増長させた。
そもそも、安定した生活を求めて正規の教員を目指しているサワ(円井わん)、一時はヘブンのラシャメンになってでも貧困生活から脱したいと考えていた元遊女・なみ(さとうほなみ)など、トキの周りを含め、結婚以外で女性が自立する選択肢はほぼない。そういった事情を無視して、トキに対し安易にラシャメンというレッテルを貼り、攻撃する市民には見苦しさを覚える。
加えて、ヘブンが松江に来た時には歓迎ムードだった市民も、トキにラシャメンの噂が浮上すると、狂気を表出していた。つまり、外国人に対する差別意識も潜んでいたことがうかがえる。アッサリと情報に振り回され、自身が持つ嫉妬心や差別意識を暴走させる展開は、ドラマという側面だけではなく、ドキュメンタリーのような切迫感があった。