「そんな蕎麦ですが、お礼を言わないわけにはいかないので、『美味しかったです。ありがとうございました』と伝えたら……。次から次へと『新作を作って配合を変えてみたから試してみて』と変わり映えしないボソボソのお蕎麦が何度も大量に送られてきて。もう発狂しそうになりました」
どうやら義父の中で、明紀さんの一言は“高評価”としてインプットされてしまった様子。研究魂に火がつき、「もっと良くなるはずだ」と改良版、試作版、配合違いバージョンが次々と届き、冷凍庫はみるみるうちに手打ち蕎麦で埋まっていきました。

「夫が『俺からもう送らないでって言おうか?』と言ってくれたのですが、そんなことを言ったらきっともうお米を送ってくれなくなるし、関係も悪くなると思って、保留、保留にしていたんですよね」
空気を読まない善意の暴走……そんな雰囲気が漂い始めたある日。
「また義父からのお蕎麦が送られてきて、私がため息をついていると……。潤がそのお蕎麦をのぞき込み『これ食べてみたい』と言い出したんです。試しに食べさせてみたら、『美味しい!』ともりもり食べ出して。驚いて私も食べてみたら、すっごく美味しかったんですよね(笑)」
茹で上がった麺は、これまでとは明らかに違っていました。均一な細さ、つややかな表面にしっかりとしたコシ。あのボソボソ感は消え、きちんと蕎麦になっていたそう。
なんとその一品は、これまでとは別物レベルの出来栄えで、明紀さんが“冷凍庫直行”させている間に、義父は着実に腕を上げていたのでした。
迷惑だと思っていた贈り物が、いつの間にか“楽しみ”に変化。次はどんな出来だろうと少しワクワクする自分に気づいたといいます。
「それ以来、心から義父にお礼を言えるようになり、わだかまりがなくなったからか、素直に『でもお蕎麦ばかりそんなに食べられないので、お米も食べたいな』と言えるようになったんですよ」
すると義父は少し照れたように、「じゃあ今度は新米も送る」と短く返してきたそう。
「改めて義父は、少し押しが強いけれど努力家の真面目な人だなと思いました。そして驚いたのは潤の蕎麦を見る目です。見ただけでよく美味しいお蕎麦だと分かったなと感心してしまいました」と微笑む明紀さんなのでした。
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<文・イラスト/鈴木詩子>
鈴木詩子
漫画家。『アックス』や奥様向け実話漫画誌を中心に活動中。好きなプロレスラーは棚橋弘至。著書『女ヒエラルキー底辺少女』(青林工藝舎)が映画化。Twitter:
@skippop