店内の視線が一斉に集まります。
「『相席は、お願いして了承をもらってからがうちのルール。あんた、勝手に座ったでしょ?』と女将さんが詰め寄ると、おじさんは一瞬たじろぎながらも『別にいいだろ、空いてんだから』とぶっきらぼうに言い返していました」
ですが女将さんは一歩も引かず「良くないね。ここはうちの店だよ。ルール守れないなら、食べさせるわけにはいかない」その言葉は静かでありながら、逃げ道を完全になくす強さがありました。
「さらに女将さんは『それにね、その手さっき見ていたよ』と一瞬、私の方へ視線をやり、全て分かってくれている様子でした」
女将さんは「わざと嫌がる女性に触れるなんて、言語道断。二度と来ないでいいよ」と続け、店の出口を指差したそう。
追い詰められたおじさんは視線を泳がせた後、舌打ちをして立ち上がり「うるせぇな、ふざけんなよ!」そう吐き捨てながらも、先ほどまでの不気味な余裕は消え失せ、足早に店を後にしました。
「そして女将さんはすぐに私の方へ向き直り、柔らかい声で『ごめんね、嫌な思いさせて』と、にこっと笑ってくれて……私はようやくホッとすることができたんですよね」
さらに女将さんは「落ち着いて食べられるように、席替えようか? すぐ料理も作り直すからね。温かいのを食べていってね」と優しく声をかけてくれたそう。
「その言葉に、胸の中に溜まっていたモヤモヤが一気にほどけていき『もう大丈夫です。でも……本当にありがとうございます』と私も笑顔でお礼を言うことができたんですよ」

その後、出し直してもらった肉野菜炒めは、さっきよりもずっと美味しく感じられました。
「あやうく最悪のランチになるところが、女将さんのお陰で温かい幸せランチにありつくことができました。女将さんの優しさを感じて、午後の仕事も頑張ることができたんですよね」と微笑む菜月さんなのでした。
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<文・イラスト/鈴木詩子>