「2人組がビクッとして固まっていると、さらに別のベテランっぽい登山者からも『山でスマホ追いかけて転落事故って珍しくないんですよ。遊び半分で危ない場所に入らないでください』と真顔で注意されていましたね」
さっきまでキャッキャとはしゃいでいた2人組は、顔面蒼白になりました。
しかも周囲の登山客たちも「だから道の真ん中で撮影していたら危ないんだよ」「ずっと迷惑だったしな……」とヒソヒソ。
「結局、スマホは木に引っかかっていたのを、慣れた登山者の男性が安全な場所から拾ってくれたものの、画面はバキバキでしたね」

さっきまでの勢いは完全になくなり、2人組はしょんぼりしてしまいました。
「すると男性は、怒るでもなく、少し笑って『山ってね、誰かに見せるためじゃなくて、自分が気持ちよくなるために来ると、もっと楽しいんですよ』と優しく語りかけていて」
2人がハッとしたように顔を上げると男性は、遠くの景色を見ながら「写真より、風の匂いとか、鳥の声とか。そういうの覚えて帰る日のほうが、案外いい思い出になるもんだよ」と続けたそう。
その瞬間、さっきまで騒がしかった2人組が、初めて静かに周囲を見渡しました。
「そしたら女性の1人が『本当だ……なんか、気持ちいいですね』と申し訳なさそうな顔になり、もう1人も照れくさそうに周りの人たちへ頭を下げたんですよね」
その後の2人は、自撮りをやめ、道を譲りながら静かに下山していったそう。
「彼女たちは悪い子なわけではなく、ちょっと浮かれ過ぎて周りが見えていなかっただけなのかな? と思いました。これをきっかけに山を好きになって、マナーを守ってまた登りに来てくれたらいいのになと思いました」と微笑む晴海さんなのでした。
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<文・イラスト/鈴木詩子>
鈴木詩子
漫画家。『アックス』や奥様向け実話漫画誌を中心に活動中。好きなプロレスラーは棚橋弘至。著書『女ヒエラルキー底辺少女』(青林工藝舎)が映画化。Twitter:
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