――「太っているのが悪い」「おじさんに申し込まれるだけで苦痛」「アラフォー女性など眼中にない」など強烈なセリフが登場します。今の時代ではコンプライアンス的にNGと受け止められる危険もあったのでは。
井原タクヤ(以下、井原):刺激的な言葉を書きたいとか、コンプライアンスに挑戦したいという気持ちはまったくありません。この作品では、婚活市場というマーケットのリアリティーを描くことが前提にあります。婚活は、お互いが相手を選び、自分も選ばれる場所。その現実をぼかしてしまうと、本当に伝えたいことが描けなくなってしまう。

『運命など存在しないので』1巻 第6話より
例えば買い物でも、「この商品は見た目が好みじゃないから買わない」という判断は普通にありますよね。それを「なんとなく違う」と曖昧にしてしまえば、本当の改善点は見えてきません。
婚活も同じで、自分が市場からどう見られているのかという客観的な評価は存在します。その現実から目を背けても結果は変わらないのであれば、改善できることを考えたほうが前に進める。そのために主人公の柏木は、相談者がつまずいている本当の理由をごまかさずに伝えているんです。
――だからこそ、厳しい言葉だけで終わらないのですね。
井原:強い言葉を書くときは、「誰が悪い」で終わらせないことを意識しています。客観的にマーケットではこういうことが起きている、という事実を描いたうえで、「では、どうすればいいのか」という解決策までセットで提示する。それがないと、ただ相手を傷つけるだけの悪口になってしまいますから(笑)。厳しいことを言わせているのも、目的を達成するための現実的な方法があるという前提があるからです。

『運命など存在しないので』1巻 第2話より
――SNSでは一部分だけが切り取られ、誤解されることもあるのではないでしょうか。
井原:ありますね。特に「おじさんに申し込まれるだけで苦痛」というセリフは、その代表例かもしれません。
一見すると、「若い女性に申し込むのは迷惑だからやめましょう」という話に見えると思うんですが、実はそういう意味ではない。作中で柏木が伝えたかったのは、「申し込んでも相手側の相談所でブロックされてしまい、そもそも相手に届かないケースが多い」という現実なんです。
結婚相談所では、多くの場合、1か月に申し込める件数が決まっています。時間もお金も無駄にならないよう、現実を見たうえで、自分がどう動けば目的に近づけるのかを考えたほうがいい…という意味を込めました。