――本作は写真の撮り方やプロフィールの作り方など、結婚相談所のハウツー的な面も描かれていますよね。
井原:連載初期は、結婚相談所の制度や仕組みを知ってもらうために、そうした部分を多く描いていました。ただ、結婚相談所の取材を重ねる中で感じたのは、婚活だけに通じる話は実はそれほど多くないということなんです。

『運命など存在しないので』1巻 第2話より
就職活動や転職活動、営業など、「自分をどう見せるか」「相手にどんな価値を提供できるか」を考える場面には、婚活と共通する考え方がたくさんあります。結婚相談所の方々も、「この人の魅力はどうすれば相手に伝わるのか」を一緒に考えながら伴走されていて、本当にプロデューサーのような仕事をされているんだなと感じました。
――作中でも相談者の高輪さんが、結婚するメリットを提示するエピソードがありました。
井原:結局、就活でも婚活でも、自分を相手に伝えるという点では本質的には同じなんです。ただ、恋愛や婚活になると、「ありのままの自分を分かってくれる人がいい」と考えてしまう人が少なくありません。

『運命など存在しないので』3巻 第16話より
もちろん、それ自体は悪いことではないと思います。ただ、一方で「自分も相手から選ばれる立場なんだ」という視点は、どうしても抜け落ちやすいのかなと。その視点を持てるかどうかが、とても大切だと思っています。
――結婚に近づく合理的なルートが示されていますね。
井原:ただ、「結婚はこうあるべき」とか、「理想の夫婦像」を描きたいわけではないんです。作品で語っているのは、人が何かを選ぶときの意思決定や、婚活市場という仕組みについてなんですね。婚活ではこういう現実があります。そのうえで、あなたはどう選びますか――と。「正解」ではなく、判断するための材料を提示したいと思っています。

『運命など存在しないので』1巻 第1話より
――「結婚は利害が一致した契約関係」という柏木の言葉も印象的でした。
井原:「利害」というと、お金や損得を想像されることが多いですが、「一緒にいると元気になれる」「安心できる」ということも、その人と関わる価値の一つですよね。
反対に、一緒にいて苦しい時間のほうが長くなれば、人は自然と距離を置いてしまう。人間関係は、「この人と関わり続けたい」と思える理由があるから続いていくものだと思うんです。だからこそ、夫婦でも友人でも、「自分は相手に何を与えられるか」を考え続けることが、良い関係を築くうえで大切なのではないでしょうか。
<取材・文/新庄圭>
新庄圭
しんじょう・けい/フリーランス編集者・ライター。アニメ雑誌やアニメ関連ムックを中心に編集・ライティングを担当。作品や作り手の魅力をわかりやすく伝える記事づくりを心掛けている。