愛だ恋だ騒がないオトナのための“歌のないクリスマスソング”【後編】

 クリスマス曲の多くがボーカルメインのなか、あえて“歌のないクリスマスソング”。あのおなじみのメロディはそのまま、じんわりと時の流れを感じつつ、静かに気持ちがたかぶる名演の数々です。

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愛だ恋だ騒がないオトナのための“歌のないクリスマスソング” つづいてアコースティックギターによる名演を2つ。まずはジョン・フェイヒーの「Silent Night」。ジム・オルーク経由でその名前を知ったという人もいるかもしれません。フィンガーピッキングによるアコースティックギターの名手ですが、ここでのフェイヒーはスライドギターを披露しています。ゆったりとしたテンポで幅の広いメロディを演奏するとどうしても間延びしがちですが、むしろ厳格にさえ聞こえてくるスリムさが不思議な魅力です。1982年発表の「Christmas Guitar」収録。


 ニール・ヤングほどの知名度はありませんが、カナダを代表するシンガーソングライターのブルース・コバーンもギターの名手として知られています。その名もずばり「Christmas」(1993年発表)と題したアルバムの冒頭を飾るのが「Adeste Fideles」。わずか1分足らずの演奏ですが、ラテン語の曲であることが意識された演奏であるように思います。やはりこのメロディにふさわしい詞は<Joyful and triumphant>ではなく、<Laeti triumphantes>だろう。粒だった装飾音のフレーズに、言語に対する神経の繊細さがうかがえます。


 ブルース・コバーンに続いて終わりの2曲も讃美歌、そして教会から。ハーブ・アルパートによるバッハの「Jesu, Joy Of Man’s Desiring」は、ブライアン・ウィルソンを思わせる転調が鮮やかです。ひとつのセクションごとにキーが変わっていくかなり独創的な解釈ですが、クラシックファンが聴いたらどんな感想を持つでしょうか。1968年発表の「Christmas Album」収録。


 最後に、讃美歌、教会とくれば何といってもパイプオルガン。1994年に2枚組の傑作「In A Quiet Cathedral」を発表したクリーブランドのオルガン奏者、トッド・ウィルソン。彼が2009年12月9日に地元の大聖堂で演奏した「Sleigh Ride」は圧巻です。もしふと立ち寄った教会でこんな演奏が聴けたなら、クリスマスを一緒に過ごす相手がいようがいまいが関係ないでしょう。パイプオルガンの残響が、ずっと頭の中でごわごわとしていてほしい。キリスト教を信じていなくても、そこで流れる音楽は信じられる。そんな気持ちにさせられる演奏です。


<TEXT/音楽批評・石黒隆之 PHOTO/Luanateutzi>




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