内見した部屋の壁には、謎の大きな穴が…【シングルマザー、家を買う/6章・後編】
⇒【前編】はコチラhttp://joshi-spa.jp/187346
分譲物件はまだ住人が住んでいるケースが多いため、住人と直接話すことができた。そこに住んでいたのは人の良さそうなおじいちゃん。推定64歳。1人でこの家に住んでいるのだと言う。でも、どの部屋もまだ子供用の机があったり、絵が飾ってあったりと、家族の匂いがプンプンする。よし、ワケアリだ。
ここでそのおじいちゃんに一声かけてみることにした。
「あの、お子さんはもう独立されたんですか?」
おじいちゃんはイスからガタッと立ち上がり、「ちょっと来て」と奥の部屋に招待してくれた。そこで見せてくれたのは大きな穴。
「この穴はね。息子がバットで開けちゃったんだよ。あのときはワンパクで怒ってばかりだったけど、いてくれたことがどんなに幸せか…」
え、死んだ?
え? ちょっと、私には荷が重過ぎる!
なんともいえない顔をしていると、おじいちゃんはそっとこう続けた。
「そんな息子もいまは隣の駅にいてね」
近っ! 隣の駅かよ! もうやめて、ほんとそういう驚かすの! 私の動揺返して! 意外とナイーブだから!
「あぁ、そうですか。でも近いならいいですね~。すぐに会えますね~」
そう声をかけるとおじいちゃんは
「あはは。そうだといいんですけどねぇ」
え? なに? ワケアリ!?
もうこの会話以来、私情に触れるのは怖すぎてやめた。いつ、どんな地雷を踏んでしまうか分からないし、その回収の仕方も分からない。ただ、この年齢で家族の家を売るって、いろいろあるんだろう。そこを詮索してもしかたない。いや、でも怨恨のある家には住みたくない! 私の一生の家になるのだ。これはちゃんと聞いておこう。穴もほんとにバットで開けたのかわかったもんじゃない。いやでも…なんて戸惑っていると、おじいちゃんが口を開いた。
「いや~。母さんが出て行っちゃってねぇ。1人でこの広さはでかすぎるから売っちゃおうと思ってねぇ! あはは!」
すっごい笑ってる。
隣で完全にドン引きしいてる母親と一緒に笑ってみるけど、うまく笑えない。
もう、どうしていいかわからないので「バツイチですか! 私と一緒ですね!」と明るく同調してみた。するとおじいちゃんは「そうなのかい! そりゃお揃いだね!」と笑ってくれたのだ。
女子が大好きなお揃い。小さな頃は友達となんでもお揃いにしたかったよな。まさか30になってこんなおじいちゃんとお揃いになるとは。
……お揃いか。いろんなバツイチがいるもんだな。
とりあえず、2軒目に向かおうと決心した私は、そのおじいちゃんにいろんな重い荷物を持たされた気がして、足取りも重く、その家を出たのだった。
<TEXT/吉田可奈 ILLUSTRATION/ワタナベチヒロ>
⇒この著者は他にこのような記事を書いています【過去記事の一覧】
【吉田可奈 プロフィール】
80年生まれ。CDショップのバイヤーを経て、音楽ライターを目指し出版社に入社。その後独立しフリーライターへ。現在は西野カナなどのオフィシャルライターを務め、音楽雑誌やファッション雑誌、育児雑誌や健康雑誌などの執筆を手がける。23歳で結婚し娘と息子を授かるも、29歳で離婚。座右の銘はネットで見かけた名言“死ぬこと以外、かすり傷”。Twitter(@singlemother_ky)
※次回更新は2月4日(水)を予定しています。
息子がバットで開けた穴


- ママ。80年生まれの松坂世代。フリーライターのシングルマザー。逆境にやたらと強い一家の大黒柱。
- 娘(7歳)。しっかり者でおませな小学1年生。イケメンの判断が非常に厳しい。
- 息子(4歳)。天使の微笑みを武器に持つ天然の人たらし。表出性言語障がいのハンデをもろともせず保育園では人気者
吉田可奈
80年生まれ。CDショップのバイヤーを経て、出版社に入社、その後独立しフリーライターに。音楽雑誌やファッション雑誌などなどで執筆を手がける。23歳で結婚し娘と息子を授かるも、29歳で離婚。長男に発達障害、そして知的障害があることがわかる。著書『シングルマザー、家を買う』『うちの子、へん? 発達障害・知的障害の子と生きる』Twitter(@knysd1980)
|
『シングルマザー、家を買う』 年収200万円、バツイチ、子供に発達障がい……でも、マイホームは買える! シングルマザーが「かわいそう」って、誰が決めた? 逆境にいるすべての人に読んでもらいたい、笑って泣けて、元気になる自伝的エッセイ。 ![]() |