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加藤はいねの『女の塊』第1回 女とは幽霊みたいなもんである 

― 加藤はいねの『女の塊』第1回 ―

 大人になったのに、思いっきり振られたことがあって。

 なんていうか、三十路過ぎの肩で渾身のストレートを投げた私も私なのですが、相手も相手で、全盛期の清原を思わすくらいのフルスイングでね、場外に消えるくらいのホームランでカキーンつって振られたことがあって。寝ずに考えた「僕は死にません!」に匹敵するくらいの名ゼリフが軽くスタンドに運ばれたわけで、もう道端アンジェリカも驚くくらいの道端だったんですけど、砂があったら拾いたいぐらいの惨敗を喫したわけです。

 失恋したら、まあ、どこに行くっていったら、大抵飲みに行くよね。あと、まあ、海とかに行くかもね。ドラマとかなら。

 で、私はどこに行ったかっていうと、お墓に行きました。振られた夜に。

 家から15分くらい自転車を飛ばした裏手に、お墓があって、そこの塀の裏に簡単に入れるような錆ついた門があって、そこからよじ登って、お墓に行きました。

失恋 海より断然、幽霊が見たかったのです。

 今まで一回も霊なんて見たことがなかったんで、霊なんて全然信じてなかったんですけど、今日だけはどうしても幽霊がいるところをチラリとでもいいから見たかったんです。幽霊なんて裏技で、人の思いだけを具現化したようなもんがこの世でオーケーなら、まだイケルと思って。魔法や超能力がなくても、幽霊みたいに「想い」の強さで何とかこぎつけられるなら、私もこの幽霊みたいな強い気持ちで、片思いの無理も通るんじゃないかって。

 で、墓の横の石段に座ってた。目を凝らして3時間ぐらい。

 夏の夜で虫の声が凄かった。ああ、それにしてもビックリするくらい振られたなあって。竹を割ったように振られたなあって。そうしてるうちに、空がどんどん紫になって、朝焼けに染まって、太陽が昇りきって、蝉が追い立てるようにぐわんぐわん泣き始めたわけで。幽霊には結局、会えなかった。火の玉すら上がらなかった。プラズマすら起こらなかった。自転車に乗って、ピーカンの晴天を背に家に帰った。

 今思えば、よく怖くなかったなと思うのですが、失恋のショックで本当に何も怖くなかったし、本当に会いたいだけだった。あわよくば、相談に乗ってもらおうくらいに思ってて。

 現れたら多分、抱きついて握手して。「呪う」とか言われたら、「呪えるのー!ステキー!」つって。人を呪えるってことが本当にできるなら、頑張れば人を惚れさせることもできるってことでしょ? でしょ? でしょ? キャー! つって。どうやんの? どうやんの? お師匠―!つって。

 でも、結局、幽霊はいなかった。とりあえず私の世界には。なので、まあ、何回告白しても、私は馬鹿みたいにスタンドに運ばれて、マウンドに帽子を叩きつけた。そして諦めきれずにクルリンパ。そんな日々を繰り返したのです。

 そんなわけで、私は幽霊っていうのが、今も割と嫌いじゃないんです。会いにいけるアイドルっていうか。身近にいそうで、いない、みたいな。AKBのメンバーに1人いてもいいくらいに。

 で、幽霊モノとか結構見てたんですけど。何回も見るうちに、あれ……これ……って、気づいたんですけど。

 幽霊って、男性の私情がすごい入っちゃってんじゃない!?

 たとえば、黒髪のロングヘアーとか。色白とか。布の薄いスカートとか。転びそうな歩き方とか。近づいて来て、突然見せた顔が結構怖いとか。急に家の近くに現れるとか。ほとんど噂だとか。今更な恨みごとをちっちゃい声でずっと言うとか。結局、解決できない、とか。逃げるしかない、とか。俺は悪くない、とか。

 キャーー! とか、ヒィーー! とか、短調の音楽に誤魔化されてきたけど、見れば見るほど、ホラ―映画ってちょっと壮大に描かれた男の人の愚痴が8割です。

 どおりで貞子を嫌いになれないわけだよ。

 回りくどくて、陰湿で、執念深くて、ネガティブ思考。まさに幽霊は、イケてない時の女そのもの。どう見ても女子会に呼べる。

 でもそんな女性らしさに溢れてるからこそ、幽霊って魅力的だと思う。

 例えばさ、『リング』が「貞子」じゃなくて「貞夫」だったらと思うとゾッとする。今ごろ大変なことになってたと思う。女のコの貞子だからこそ井戸登ってくるシーンも恐怖だったけど、アレさ、貞夫だったらただの筋肉番付。しかも貞夫ったら井戸でも登り切ろうもんなら得意げに「もっとデカイことがしたい。井の中の蛙じゃ今の日本は変えられない」とか言い出しそう。で、幽霊の枠に収まらない変な上昇志向でもって、井戸じゃないとこからも出てきたりしそう。何か「原発の問題からゴジラにメッセージ性を感じた」とか言って、無駄に東京湾を割って登場したりしてしまいそう。

 で、出てきたら出てきたで、「つまりは、結論から言うと」とか言って幽霊のくせに明快に話し出しそう。たまに「昔は俺も結構無茶もしたし」みたいな俺伝説をちょこちょこ挟んでくるから、何か、長くて恐怖のBGMも2周目に突入。ふいに、可愛いコの家に出ちゃった時なんかは「何にもしないから、何にもしないから」とか言って、でも、貞夫って、何かしそう。そんなことやってるうち、「貞夫って、言うほど全然怖くねぇなー」ってことになって、慌てて「つーか、オレを怒らしたら半端ないから。兄ちゃんの友達にヤクザいるから」とか言い出して、はたまた、幽霊のくせに、これ見よがしにナイフとか出したりして、何かもう、ナイフを舐めたりして、必死に。恐怖を演出するために。

 で、最終的に、題名も『魂のリング』とか盛った感じにしそう。ドヤドヤと。それを見てね、男性陣は拳を握りしめ、時間も忘れ、なんか涙したりするんだと思うんですけど。「貞夫が全てをかけて、仲間を助けに戻ったとこが良かった」とか言って。
 
 一方、その男性の姿を後ろから生温かく見つめている女性は、もう立ってるだけで怖いっていうね! <TEXT/加藤はいね PHOTO/Eti Swinford>

【加藤はいね】
32歳。救命救急病棟勤務の看護師。プライベートはツンドラ。24歳のときに立ち上げたブログが、その文体、内容ともに喪女のみならず多くの人の支持を集めて一躍知る人ぞ知るブロガーに。現在執筆中のブログは、『私の時代は終わった』『エロマンティック』




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